ティーンエイジ・ラプソディーズ /第十七回
原作/関根友実
脚本/広瀬弥生
演出/森脇義次
作画/かすみゆう
出 演
坂本夏樹
…橋詰優子
坂本陽太郎
…清水貴之
坂本月太郎
…赤江珠緒
結城美咲
…山本モナ
常盤翔太
…長嶋賢一朗
菊池善夫
…柴田 博
美川 健
…浦川泰幸
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テーマ音楽。
夏樹
「(独白)私、坂本夏樹、十九歳。二年ぶりに高校時代の野球部の仲間が、監督の結婚パーティーに集まった夜、私達は、意外な場所であいつと再会した。あいつ、常盤翔太、野球部の元エース。プロ野球選手だったお父さんの八百長スキャンダルを暴かれ、甲子園まであと一歩というところで逆転負けを喫した常盤。その後、忽然と私達の前から姿を消した常盤と再会したのは、かりそめの恋愛とむき出しの欲情が渦巻く夜の街のホストクラブの前だった……」
街の雑踏。
美咲
「夏樹、気分はどない?」
夏樹
「う……うん。だ、大丈夫や……。ちょっと、立ちくらみがしただけやから……」
善夫
「俺もショックや……。それに……翔太が、俺達を無視するなんて……」
美咲
「ホンマに常盤君はホストになってしもたんやろか?」
善夫
「だって、あいつが戻っていったあの店、『ルパン』て看板出てるけど、出入りしてる客は皆、派手な格好した女ばっかりやんか……」
美咲
「(溜息)どないしたらええんやろ……」
善夫
「俺、店に行って、事情を話してみる」
美咲
「え?」
善夫
「美咲は、坂本についててやってくれ。俺が、なんとかして翔太を連れ出してくるから」
夏樹
「菊池君、待って! 私も行く」
善夫
「……坂本、止めとけ。見たくないもん、見てしまうかもしれへんど」
夏樹
「ええんや、そんなこと! ……常盤がどうしてあそこにおるのか。何で私らに一言も相談してくれへんかったんか……(泣く)。私、今、頭ん中グチャグチャやけど……、とにかく、今の常盤に直接会ってみんことには始まらへん気がするんや……」
美咲
「解る! 解るでぇ、夏樹の気持ち。ホンマのこと知ろう思たら、目ぇそむけてられへんもんな」
善夫
「よっしゃ、解った。三人で行こ! 三人で、あの店に行ってみよ!」
ホストクラブのざわめき。
美川
「いらっしゃいま……」
善夫
「あのー、すみません……」
美川
「あの、お客様、大変申し訳ないんですが、うちの店は、女性のお客様専用の社交場となっておりまして……」
善夫
「いや、あの、僕ら、客じゃないんですけど、その、ちょっとお願いがありまして……」
美咲
「このお店で働いていると思うんですけど、常盤翔太君に会わせてください!」
美川
「常盤……翔太? ……ああ、ショウのことね。あなた達、ショウの知り合い?」
善夫
「そうなんです! そうなんです! 俺達、翔太の高校時代の同級生で……」
美川
「(遮って)残念だけど、……私の店で働いてる子達には、昔の知り合いに会いたがらない子が多いの。それにショウは売れっ子で、今、御指名のお客様についているところだから……」
夏樹
「そんな……」
善夫
「伝えるだけでも伝えてもらえませんか? 翔太に……。聖林野球部の三人組が来てるって……」
美咲
「私達、何時間でも待ってますから!」
善夫
「お願いします!」
夏樹
「お願いします!!」
美川
「(溜息)困ったわねぇ」
ホスト
「あの、店長、何かトラブルですか?」
美川
「ああ、タケル。大丈夫。そんなんじゃないわ。……そうだ、ショウにね、高校時代のお友達が来てるんだけど、ちょっとテーブルはずせないかって聞いてきてちょうだい」
ホスト
「かしこまりました」
善夫
「はぁ〜、よかったぁ〜。……あ、あ、ありがとうございます!」
美川
「ちょっと、あなた達、人にモノを頼んでおいてタダっていうのはないんじゃない?」
善夫
「は?」
美川
「うちの店に来るお客様は、皆、高いお金出して、夢の時間を買いに来るのよ。夢でも、愛でも、感謝の気持ちでも、お札の形してなきゃ通じないっていうのが、この世界の常識なのよ」
善夫
「あ、すみません! 気が付かなくて……。あの……これ、どうぞ……」
美川
「あら、一万円! あんた、出世するわよ」
善夫
「しまった! 五千円札のつもりが……」
美川
「一万円に免じて、私が知ってるショウのこと、話してあげる。あの子は、私がこの店の前で拾ったのよ」
夏樹
「拾った?」
美川
「喧嘩でもしたらしくてね、店の前でボロボロになって倒れていたの。二年前の夏だったかな……。自分を捨てた人間を恨んでる捨て猫みたいに、冷たくて、寂しそうな目をしてたわ。でも、あの子を雇って正解。今じゃうちのナンバーワンだからね」
ホスト
「店長、失礼します」
美川
「ああ、タケル、ご苦労さん。で、ショウはどうだって?」
ホスト
「はい。それが、話すことは何もないから、帰ってもらってくれと……」
夏樹
「(独白)結局、その晩、私達は、常盤と話すらできず、がっかりして、それぞれ家路についた……」
引き戸開閉する音。
陽太郎
「こら、姉ちゃん、こんな時間まで何しとったんや! 心配するやないか」
月太郎
「もう午前一時やで。お父ちゃんも、心配してたで! ……寝てしもうたけど。あれ? 姉ちゃん、どないしたんや? 泣いてるのか?」
柱時計の音、お茶を入れる音。
陽太郎
「ほら、お茶、飲めよ」
夏樹
「ありがとう……」
月太郎
「……これまでの姉ちゃんの話を整理すると、常盤さんは、ホストになって働いていたって訳やね」
陽太郎
「常盤先輩が……ショックや……。せやけど、きっと何か訳があるんや……」
夏樹
「けど、話もさせてくれへんねんよ」
月太郎
「そんなん、姉ちゃん、客として、その店に行ったらええやんか。客になら、とりあえず話してくれるやろ?」
陽太郎
「そうか、さっすが頭ええな、月。そうせえ、姉ちゃん、な」
夏樹
「(溜息)そう簡単にいかへんのよ。その店、すっごく高そうやねん。何でも、お金、お金の世界らしいから……」
月太郎
「まかしとき! 実は僕、今まで小遣いをこつこつ積み立ててきてん。遠慮のう、それ使うてくれ」
夏樹
「月ちゃん……」
陽太郎
「俺も出すで! す、少ししかないけど、遠慮のう使うてくれ!」
夏樹
「陽ちゃんも……。ありがとう二人とも。そうやね、思い悩むよりも、行ってみる! 常盤にぶつかってみる!」
夏樹
「(独白)弟達の暖かい応援を得て、次の日、私は、勇気を出して、一人でホストクラブ『ルパン』へ乗り込んだ」
ホストクラブのざわめき。
美川
「いらっしゃいま……、あら! あなた、昨日の……」
夏樹
「今夜は、客として来ました」
美川
「可愛らしいわねぇ、あなた。精一杯着飾っちゃって。お客様ならたっぷりとサービスさせていただきますよ。ええと、御指名は? やっぱりショウをお望みですよね?」
夏樹
「はい」
美川
「ショウは今、他の御指名が入ってますので、ちょっとお待ちいただきますが、他にも男前が揃っておりますんで、楽しんでください。アキラ! こちらのお客様、お席まで御案内して」
夏樹
「(独白)常盤は完璧なホストだった。女達が喜ぶ甘い言葉を恥ずかし気もなくささやき、当たり前のように彼女達の腰を抱き、キスをする……。私は目の前で起こっている現実を到底信じることができなかった」
翔太
「お待たせいたしました、お客様」
夏樹
「常盤……」
翔太
「いやだなぁ、私の名前はショウですよ。間違えないでください(笑い)。お客様のことは何てお呼びしたらいいのかな? 坂本様? 夏樹様? それとも……夏樹って呼んでかまわないのかな?」
夏樹
「常盤、そんな話し方、止めて! ねえ、今までどうしてたん? 野球部の皆も心配してずっと探し回って……。何で私らに何も言わんといなくなったん?」
翔太
「ここは現実を忘れられる、魔法の場所ですよ。昔のことより、今を大切にしなくちゃ。今、目の前にいる美しい人を大切に……。夏樹……綺麗になったな……。流れる黒髪、情熱の瞳、そして柔らかく甘く香るその唇……」
夏樹
「やっ! 放して……うっう……」
頬をうつ音。
翔太
「うっ……」
夏樹
「な、何するのよ」
翔太
「御挨拶のつもりで、キスしただけなんですがね」
夏樹
「(独白)夢にまで見た常盤とのファーストキス。それは心まで凍らすような冷たいキスだった。私は、溢れ出る涙を止めることができず、店を飛び出した」
つづく
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