ティーンエイジ・ラプソディーズ /第二十三回
原作/関根友実
脚本/広瀬弥生
演出/森脇義次
作画/かすみゆう
出 演
坂本夏樹
…橋詰優子
坂本孝太郎
…藤崎健一郎
坂本陽太郎
…清水貴之
坂本月太郎
…赤江珠緒
結城美咲
…山本モナ
常盤翔太
…長嶋賢一朗
菊池善夫
…柴田 博
竹下智哉
…上田剛彦
中野ユリ子
…高野直子
藤本卓也
…清水次郎
三宅玲子
…加藤明子
医者
…鳥木千鶴
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救急車のサイレン。
翔太
「夏樹! 夏樹! しっかりするんや! もうちょっとで病院やからな! 頑張るんやで!」
夏樹
「(独白)私、坂本夏樹、十九歳。野球賭博グループにさらわれた私は、助けに来てくれた常盤翔太をかばって、ヤクザに刃物で刺されてしまった。背中が焼けるように痛んだ。痛さのあまり、意識が遠ざかっていく……。翔太……翔太、助けて……」
夏樹
「……う……ん」
月太郎
「姉ちゃん?」
陽太郎
「姉ちゃん! 気が付いたんか?」
孝太郎
「夏樹!! 良かった、良かったぁ……(半べそ)」
夏樹
「……お父ちゃん」
陽太郎
「月、お医者さんに知らせてきてくれ」
月太郎
「うん、解った」
扉開閉する。
夏樹
「ここは、病院? ……私、どうしてたん?」
陽太郎
「姉ちゃん、背中刺されて、出血多量で危なかったんやで。せやけど、処置が早かったそうやから」
孝太郎
「手術終ってからも、まる二日眠っとたんや……。ワシは、もう心配で心配で」
夏樹
「え……二日も?」
扉開閉する。
孝太郎
「あ、先生!」
医者
「目が覚めたようね。……良かったですね、お父さん」
孝太郎
「あ、ありがとうございます……(またもやベソ)」
医者
「夏樹さん、気分はどう?」
夏樹
「はい……なんか、眠りすぎてたみたいで、まだ頭がボンヤリして……」
医者
「(笑い)そうね、薬がよく効いたみたいね。……じゃ、傷口を診るわね」
夏樹
「あ、はい」
医者
「……ふ〜む、よしよし、順調、順調。……それにしても、あなたを運んでくれた、常盤君って言ったっけ……彼があなたと同じ血液型で本当に助かったわ」
夏樹
「え?」
医者
「彼からすぐに輸血できたから、大事にならずにすんだのよ」
夏樹
「……翔太が……私に……」
医者
「あ、そうそう。彼からの預かり物があるのよ。彼、輸血した後、すぐに警察の事情聴取に呼ばれたんだけど、あなたのことが心配だったんでしょうね。これをあなたのためにって置いていったのよ」
夏樹
「(独白)お医者さんが取り出した物は……お守りだった。ボロボロに擦り切れた、手作りのお守り……。高校三年の夏、大阪大会決勝戦の前日、私が翔太に贈った手作りのお守り……。あいつ、持っていてくれたんだ……。この二年間、誰も信じられなくなるくらい傷ついたあいつが、私のお守りを捨てずにずっと持っていてくれたんだ……。それからは、親友の美咲をはじめいろんな人が私の見舞いに来てくれた。警察も事情聴取にやって来た」
病室で警察の事情聴取を受ける夏樹。
夏樹
「(独白)刑事さん達の話によると、ルパンの店長が110番してくれ、私が刺された直後に警察が現場に踏み込み、西条一味はその場で逮捕されたのだそうだ。店長は、自らも警察に出頭し、十年前の大阪キングスの八百長試合について証言し、プロ野球界は騒然となった。そして、八百長の疑いをかけられた翔太のお父さんの無実が、ついに証明されたのだった」
扉開閉する。
智哉
「よぉ、夏樹」
夏樹
「あ、智哉君」
智哉
「もっと早く見舞いに来たかってんけど、事情聴取とかで大変そうやったから」
夏樹
「遠慮してたん?」
智哉
「うん……まあ」
夏樹
「心配ばかりかけてごめんな」
智哉
「アホ。せやけど、無事で……良かったな」
夏樹
「ありがとう……」
智哉
「……夏樹」
夏樹
「ん? 何、智哉君?」
智哉
「……すっきりしたよ。自分の気持ち」
夏樹
「え?」
智哉
「実は俺……お前に未練があったんや。せやからお前に事件のこと調べるの手伝ってくれ言われた時、これはチャンスやと思った……」
夏樹
「智哉君……」
智哉
「でも、今回のことで、やっぱりあいつに負けたんやって思った。だって、お前、一途やもん……一直線に常盤のことしか見てへんもん。じゃなきゃ、刃物の前に身ぃ投げ出すなんてできへんもんなぁ」
夏樹
「智哉君……。ごめんな、私、智哉君に甘えてばっかりで、智哉君の気持ち……」
智哉
「(やさしく遮って)ええんや。夏樹が謝ることない。けど、このことだけは伝えておきたかったんや。……夏樹、絶対に幸せになれよ」
夏樹
「ありがとう……」
智哉
「あ、それから、中野ユリ子から手紙、預かってきてるんや。何や急にアメリカに行くことになったらしいで」
夏樹
「えっ!? アメリカへ!?」
力が湧いてくるような音楽。
ユリ子
「前略、坂本夏樹様。忙しくて、あまりお見舞いに行けなくてごめんなさい。
この数週間、私の周りは大変な騒ぎでした。大阪キングスの八百長事件には球団上層部の一部も関わっていたのです。暴力団に弱みを握られていたのでしょう。だから十年前の役員会で、翔太君のお父さんが陥れられてしまったのです。
おまけに最近まで八百長試合が仕組まれていたことも判ってきました。チームはもうボロボロです。
お祖父様は、球団オーナーとして、チームを再生するため、思い切って若い力を起用していくそうです。そして、その構想には私も含まれています。
そこで、本場アメリカに行って、私に球団経営を学んでこいと言うのです。
実は、私自身、以前から関心はありながら、何か踏ん切りがつかなくて……。でも坂本さんを見ていて、本当にやりたいことのためには迷っていたらだめなんだって思ったから、私、決心しました。アメリカに行ってきます。
それから、翔太君のことは、悔しいけど、あきらめました。今回の事件で、つくづくあなたにはかなわないなって感じました。でも、またいつか、同じ人に恋をした同志として、ゆっくりお話しましょうね。中野ユリ子」
扉開閉する。
善夫
「坂本、元気か? 見舞いに来たで」
夏樹
「あ、菊池君。美咲も来てくれたん」
美咲
「善夫がチームの皆に連絡してもうてさぁ。懐かしい人達が今日は来てくれてはるよ」
藤本
「坂本!」
玲子
「坂本さん!」
夏樹
「あー、藤本監督に玲子先生! お久し振りです!」
藤本
「良かったなぁ、無事で。話は聞いたよ。いろいろ大変だったなぁ……」
玲子
「心配したわよ、本当に。昔から坂本さんは無茶ばかりするんだから……」
藤本
「お前とそっくりだよな」
玲子
「ちょっと、それどういう意味!?」
善夫
「あわわわ……。監督! 玲子先生! 夫婦喧嘩はまずいっすよ!」
玲子
「あら! 喧嘩するほどの仲の良さって言うでしょ」
善夫
「え? そうなんですか? 俺と美咲は喧嘩にならないけどな……恐ろしくて……」
美咲
「何やて!?」
藤本
「(笑い)……だけど、お前達、いつの間にかたくましくなったな。自分達で乗り越えたんだもんな」
美咲
「そういえば、夏樹、ビッグニュースがあるんよ! 藤本監督と玲子先生が聖林高校に復帰しはるんよ!」
夏樹
「えー! 本当ですか!?」
藤本
「ああ。二年前の大阪大会決勝直前に、常盤の親父さんを中傷するビラを張り出した犯人が解ったんだ」
玲子
「暁星高校の町田監督がやらせていたのよ。私達を動揺させて、決勝戦を有利に闘おうと思ったんでしょうね」
夏樹
「そんな、卑怯な!」
藤本
「甲子園に行かねばならないっていうプレッシャーが、あの人を変えてしまったんだろうな」
善夫
「甲子園って、たとえ出場できなくても、心の中にあるだけで素晴らしいものなのに」
藤本
「その通りだな、菊池」
美咲
「でね、藤本監督は決勝戦で負けた責任を取らされて系列校に転勤しはってんけど、今回のことで、校長が謝ってさぁ、元に戻すって言うてきたんやて」
夏樹
「そうやったんですか! 監督! 先生! おめでとうございます!」
藤本
「おお、ありがとう。夏の大会まであとわずかだけど、今までチームを見てくれてきたコーチ達と一緒に頑張るよ」
夏樹
「(独白)懐かしいあの頃が戻ってきたように感じた。あと一人、翔太が傍にいてくれたら……。私が意識を取り戻してから数週間、翔太が病院に現れることはなかった。警察の取り調べが続いているとは聞いていた。でも会いたい……。翔太に会いたい……。それから暫くして、私は、お医者さんから強引に外出許可をもらった。来てくれないのなら、こちらから会いに行こう。久し振りの街のざわめきに振り向きもせず、私は急いだ、翔太の家へ」
つづく
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