ティーンエイジ・ラプソディーズ /第六回
原作/関根友実
脚本/広瀬弥生
演出/森脇義次
作画/かすみゆう
出 演
坂本夏樹
…橋詰優子
坂本孝太郎
…藤崎健一郎
坂本陽太郎
…清水貴之
坂本月太郎
…赤江珠緒
常盤翔太
…長嶋賢一朗
菊池善夫
…柴田 博
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テーマ音楽。
夏樹
「(独白)私、坂本夏樹、聖林高校一年生で野球部のマネージャー。家はお好み焼屋で、お父ちゃんと弟二人との四人暮らし。お母ちゃんは私ら姉弟が小さい時に亡くなってて、弟二人にとっては私がお母ちゃんの代わりみたいなもんやね。末っ子の月太郎は小学六年生ながら我が家で一番の物知りや。弁護士志望で、この前の弁論大会近畿大会でも審査員特別賞を取ったんやで。心配なんは…中学二年のもう一人の弟、陽太郎…。最近、帰りが遅い日が続いてて……。この日は、とうとう……」
雀の鳴き声。
月太郎
「ふぁ〜あ、お父ちゃん、お姉ちゃん、おはよう」
夏樹
「あ、月ちゃん、おはよう。もうこんな時間……」
月太郎
「あれえ、どないしたん、二人とも? げっそりやつれて。目ぇ、真っ赤やで……」
夏樹
「月ちゃん……。陽ちゃんが、夕べ、帰ってこんかったんよ……」
月太郎
「え!?」
孝太郎
「陽太郎、どないしたんやろ……。何で帰ってきいへんねん!!」
夏樹
「心配で心配で、結局お父ちゃんは徹夜したんよ……」
月太郎
「お姉ちゃんもか?」
夏樹
「うちは、少し寝たけど……」
孝太郎
「交通事故にあったんと違うやろな……悪い奴に襲われたんと違うやろな……」
月太郎
「大丈夫や、お父ちゃん、それやったら警察とかが、なんぞ言うてくるで」
孝太郎
「それやったら、陽太郎は何で帰ってきいへんねん!!」
夏樹
「お父ちゃん! 月ちゃんに怒鳴っても……」
引き戸が開閉する。
月太郎
「あ! 陽太郎兄ちゃん」
孝太郎
「陽太郎……」
夏樹
「陽太郎!! あんた、こんな時間に! 夕べはどこ行ってたんや!」
陽太郎
「うるさいな!」
孝太郎
「陽太郎、どこにもケガはないか? 大丈夫なんか?」
陽太郎
「大丈夫に決まってるやろ!」
夏樹
「陽太郎! 皆、心配しててんで! あんた、どこへ行ってたんや!?」
孝太郎
「ま、まあ、夏樹。とりあえず、無事に帰ってきたんやから。男やねんから、いろいろあるわな。人様のご迷惑になるようなことさえせんかったらええんや……」
陽太郎
「うるさいわ! あんたにだけはゴチャゴチャ言われたないんや!!」
夏樹
「ちょっと陽太郎! お父ちゃんに向かって『あんた』って何? お父ちゃんに謝んなさい!」
陽太郎
「ぜったい嫌やね!」
夏樹
「陽太郎!」
陽太郎
「父親とも思いたないわ!!」
孝太郎
「陽太郎!」
孝太郎が陽太郎を殴る。
陽太郎
「いて!!」
夏樹
「(独白)お父ちゃんが陽ちゃんを殴った! お母ちゃんが亡くなってからこっち、子供たちに手を上げたことのなかったお父ちゃんが……」
陽太郎
「……何するんや!! こんな家、こんな家、出てったる!」
夏樹
「陽太郎! ちょっと、待ちなさい、陽太郎!!」
引き戸が開閉する。
夏樹
「(独白)お父ちゃんの目には、うっすらと涙が光っていた。中学校に電話したら、陽太郎は授業には出ているらしい。おそらく友達の所にでも泊ったんやろう……。陽ちゃんのことは、また家族で話し合うことにして、その日、とりあえず私も高校に行った。授業も部活も身が入らへんかったけど……。せやけど、部活の後、学校の近くのコンビニで、あいつ、常盤翔太と陽ちゃんが出会うてたなんて夢にも思わんかった……」
コンビニエンスストアのざわめき。
店員
「いらっしゃいませ」
翔太
「ああ、腹減ったなぁ」
善夫
「翔太、何にすんねん?」
翔太
「俺、ヴィダーインゼリーにしよっと」
善夫
「キムタクみたいやな」
翔太
「疲れた体に十秒チャージや。善夫は何にすんねん?」
善夫
「俺はいちご牛乳にしよ」
翔太
「ははは、顔と合うてへんで……あ! おい、お前、なにしてんねん!」
陽太郎
「しもた!」
善夫
「どないしたんや、翔太?」
翔太
「お前、今、自分のカバンに何か入れたやろ! 元の棚に戻せ! はよ!」
陽太郎
「な、何すんねん! 俺は何も……」
善夫
「あ! こいつ、万引きを……」
翔太
「おまえ、中学生やろ? どういうつもりや?」
陽太郎
「くそ〜。あんたには関係ないやろ。警察につきだすんやったら、さっさとせえ」
翔太
「……よし、ちょっとついてこい」
陽太郎
「はあ?」
善夫
「翔太、どこ行くんや?」
翔太
「最高の気分になれるとこ。はよ表に出よ。はよ、はよ!」
店員
「ありがとうございました〜」
公園の雰囲気。
善夫
「翔太、……ここは、俺たちが小学生の頃、初めてキャッチボールした公園やんか」
翔太
「そうや。俺らはここで野球を始めたんや」
陽太郎
「何でこんな所に来なあかんねん!」
翔太
「お前の手を見たからさ。ええ手とええ肩を持ってる」
陽太郎
「な、何のことやねん」
翔太
「野球、せえへんか?」
陽太郎
「野球? 何でそんなことせなあかんねん」
翔太
「善夫、ちょっと、お前のミット貸してくれ」
善夫
「お、おう」
翔太
「少年、お前には俺のグラブ貸したるわ」
陽太郎
「な、何を始める気や?」
翔太
「キャッチボールや。どうせ、むかつくことがあったんやろ?いやなことぜーんぶ忘れて、ボールと向き合ってみろや。気持ちええぞ。ほら、行くぞ!」
陽太郎
「え? うわ、うわー」
キャッチボールの音。
善夫
「さすが翔太。強引さは天下一品や。俺もあんな感じで強引に野球に誘われたっけな」
キャッチボールの音。
翔太
「どや? 気持ち良かったやろ? 体動かしてたら、嫌なこと全部忘れるやろ?」
善夫
「少年、なかなかええボール投げるようになってきたやんか」
陽太郎
「……あんたにも嫌なことなんかあるのか?」
翔太
「俺か? ああ……以前、親父に裏切られたことがある。……でもな、そんな時、野球に出会ったんや」
陽太郎
「親父に……裏切られたんか……」
翔太
「でもな、この白いボール見てたら、いつのまにか怒りは収まってた。不思議やな。せやから、俺は、このボールに対してだけは、絶対に正直でいたいと思ってるんや」
陽太郎
「……俺の母ちゃん、五年前に死んだんやけど、親父に……最近付き合ってる人ができたらしいんです。俺、見てしもたんや、その現場!」
善夫
「え! 現場って……ホテル入るとこか?」
翔太
「アホ! 善夫!」
陽太郎
「違いますよ! ……うち、店やってるんですけど、その人、ちょくちょくうちに来るんです。そん時、親父がむちゃ嬉しそうにしてて……」
善夫
「なんや、そんなことか……」
陽太郎
「せやけど、なんだか、死んだ母ちゃんがかわいそうで……。父ちゃんに忘れられてしまうのかって……。親父にめちゃくちゃ腹が立ってきて……」
翔太
「忘れられるわけないやろ。親父さん、大切に心の中にしまってるって。お前の母ちゃんとの思い出はな。お前の母ちゃんも、きっと親父さんが幸せになることを望んでるよ。何よりも、お前と親父さんがうまくいくことを望んでるやろな。時間がかかってもええから、解ってやれよ、親父さんのこと」
善夫
「は〜、コンビニで買い食いしそびれたから腹減ったなあ。な、翔太、坂本商店でお好み焼食べてかへんか?」
陽太郎
「え? 坂本商店知ってはるんですか? 俺のうちですよ!」
翔太
「へ? ほんなら、お前も坂本夏樹の弟なんか? ほんまにバラエティーに富んだ姉弟やな」
陽太郎
「はい! 坂本陽太郎いいます!」
夏樹
「(独白)そんなことになってるとは全然知らんかった。常盤翔太、あいつのおかげで、坂本家はピンチを脱したみたい。あいつは意識してへんのやろうけど、私の周りであいつは存在感を増している。周りだけやない、私の心の中でも……。そして、あいつが登板するライバル暁星高校との練習試合が間近に迫っていた……」
つづく
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