ティーンエイジ・ラプソディーズ /第九回
原作/関根友実
脚本/広瀬弥生
演出/森脇義次
作画/かすみゆう
出 演
坂本夏樹
…橋詰優子
坂本孝太郎
…藤崎健一郎
坂本陽太郎
…清水貴之
坂本月太郎
…赤江珠緒
結城美咲
…山本モナ
常盤翔太
…長嶋賢一朗
菊池善夫
…柴田 博
三宅玲子
…加藤明子
藤本卓也
…清水次郎
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夏樹
「(独白)私、坂本夏樹、聖林高校一年生で、野球部のマネージャー。最大のライバル、暁星高校との練習試合には惜しくも負けてしまったけど、かえってチームは一丸となった。そして、それまでは、あこがれているだけだった甲子園が、チームのはっきりとした目標となった」
藤本
「「よーし、皆、集まれ! 選手権大会の地方大会が、いよいよ近づいてきたな。来週は、最後の仕上げのための合宿だ! 合宿については、以前プリントを配ったけど、三宅部長先生の方から皆に注意事項を伝えてもらうからな。それじゃ、三宅先生、お願いします」
玲子
「「はい。今、藤本監督が言われたプリントを、皆、もう一度よく読んでおいてね。そこに書いてないもので、どうしても必要なものがでてきたら言ってきてちょうだい。買ってきてもらうから。えーっと、その買い出しは……、じゃあ、常盤と……そうね、坂本にお願いしようかな?」
夏樹
「へ?」
翔太
「えー!? めんどくさ〜」
玲子
「「つべこべ言わない。坂本だけだったら、野球用具なんかで解らないことが出てくるかもしれないでしょ。常盤は一年生エースなんだから、頼んだわよ」
翔太
「は〜い」
玲子
「「坂本さんも頼んだわよ。後でリクエストまとめてメモにして渡すからね」
夏樹
「はい」
美咲
「(小声で)ちょっと、夏樹。ツーショットやんか。どうする、これはデートみたいなもんやでぇ」
夏樹
「しっ! うるさいな。そんなわけないやんか。部員とマネージャー、それだけよ」
藤本
「「じゃあ、用事のない者はこれにて解散! 皆、気いつけて帰れよ」
商店街のざわめき。
美咲
「チームはいい感じやね。なんか、青春してるよね、私たち」
夏樹
「そうやねぇ……」
美咲
「ん? なんか変やよ、夏樹。なにかあったん?」
夏樹
「べ、別に……」
美咲
「ちょっとぉ、何年親友やってると思ってんのよ。解るわよ、夏樹の様子がおかしいってことくらい」
夏樹
「美咲……。うん、じゃあ、二人だけのヒミツやで……あの、智哉君にな、好きやって言われてしもたんや……」
美咲
「えー!! 智哉くんに告白されたん?!」
夏樹
「シーっ! もっと小さな声で……」
美咲
「ご、ごめん、つい、興奮しちゃって……。それで、いつ?」
夏樹
「うん。この前の練習試合の日の夜、電話かかってきて……」
美咲
「ひゅーっ! やるねー、智哉君も」
夏樹
「もう、ちゃかさんといてよ」
美咲
「ごめん、ごめん。……で、夏樹は智哉君のこと、どう思ってんの?」
夏樹
「もちろん嫌いやないよ。けど……好きとは違う」
美咲
「ほかに好きな人がおるん?」
夏樹
「え? ううん、そんなん、おらへんけど……」
美咲
「常盤君は?」
夏樹
「はあ? な、何であいつのことなんか……」
美咲
「あ、動揺してる!」
夏樹
「もう、それが親友の態度なわけ?」
美咲
「うそうそ。迷いがある時は、じーっくりと悩んだ方がええよ。ま、私の場合は、迷いは全然あらへんけどな。愛しの
藤本
「監督にアタック一直線や!」
夏樹
「美咲は幸せな性格してるわ」
美咲
「じゃあ、夏樹、私はここで藤本監督を待ち伏せするからさ。先、帰ってて」
夏樹
「え?」
美咲
「調べたんや。藤本監督は、三日にいっぺんはこっちの道通って帰るって。せやからここで待ち伏せするんや。『あら、偶然ですねぇ』って言って近づくんや。二人きりになるには計画と実行力や」
夏樹
「ほんま、美咲の恋愛に対するパワーだけは尊敬するわ」
美咲
「へっへっへー。じゃあね!」
夏樹
「うん、じゃあね!」
夏樹
「(独白)美咲の『ほかに好きな人がおるん?』という質問が、頭の中をぐるぐる回っていた……。好きになるって、どういうことなんやろ……。私は、ホントは……誰が……」
自転車のベル。
翔太
「坂本!」
夏樹
「わっ!! びっくりした」
翔太
「何をそんなに驚いてるねん」
夏樹
「ちょ、ちょ、ちょっと考えごとしてたから……」
翔太
「ボーッと道歩いとったら危ないで。ところでな、合宿の買い出しやけど、今度の日曜日でどうや?」
夏樹
「ん、べつにかまへんけど」
翔太
「よっしゃ。ほんなら、日曜日の午前十一時に道頓堀のカニの前で待ち合わせな」
夏樹
「うん、解った」
翔太
「じゃあな! ……そうや、この前の練習試合、勝てなくてごめんな。お前と約束したのにな。それじゃ、またな」
夏樹
「(独白)私との約束……絶対試合に勝つと言ってくれた、あの言葉。ちゃんと憶えててくれたんや。そう思うと、なんだか胸があったかくなってきて……」
キャベツを刻む音。
陽太郎
「お父ちゃん、今日は日曜やのに、仕込みはこんなもんでええんか」
孝太郎
「天気予報が悪いからな。こんな日は、そんなにお客さん来いへんねん」
月太郎
「えらいこっちゃ、えらいこっちゃ!」
孝太郎
「店開けるまで一時間もあるっちゅうのに、何やかましい言うてんねん」
陽太郎
「何かあったんか、月太郎?」
月太郎
「あ、お父ちゃん! 陽太郎兄ちゃん! えらいことやねん! あのな、夏樹姉ちゃんが、鏡の前に立っておしゃれしてんねん!」
陽太郎
「なんやて!」
孝太郎
「えー!? 夏樹が?」
月太郎
「いろんな洋服胸に当てて、何着るか考えてるみたいやねん」
陽太郎
「それって、デ、デートとちゃうか?」
孝太郎
「まさか?」
夏樹
「三人で何話してんのん?」
月太郎
「うわ、夏樹姉ちゃん!!」
夏樹
「何よ、月ちゃん。何でそんなに驚くんよ?」
月太郎
「い、いや、別に……」
陽太郎
「ね、姉ちゃん、どこ行くんや?」
夏樹
「合宿の買い出しよ」
月太郎
「え、ただの買い出し?」
孝太郎
「デートとちゃうんか?」
夏樹
「ち、違うわ! たんなる買い出し! 三宅先生の命令なの。じゃあね、行ってきまーす」
格子戸が閉まる音。
月太郎
「……行ってしもた」
陽太郎
「せやけど、あの狼狽ぶりはあやしいな」
孝太郎
「ウ〜ム。夏樹の貞操は大丈夫やろか」
月太郎
「父ちゃん、貞操って何?」
陽太郎
「ア、アホ! そんなこと聞くな!」
孝太郎
「よし、月。これから、父ちゃんが性教育講座を開いたる」
陽太郎
「やめてくれー!!」
道頓堀のざわめき。
夏樹
「おっそいなあ、常盤のやつ……。何してるんやろ。もう十二時やんか」
雨の音。
夏樹
「うわー、雨まで降り始めたやんか。もぉー、最悪!」
菊池
「坂本!」
夏樹
「あれ? 菊池君やんか。なんでここに?」
善夫
「やっぱ、まだいたんや。翔太のやつから電話があってさ、お前のこと見に行ってくれって」
夏樹
「常盤から? あいつに何かあったん?」
善夫
「うん……急用、やねんて」
夏樹
「何やの? 急用って」
善夫
「中野ユリ子がさ、体の具合が悪いって、急に翔太のこと呼び出したらしくってさ……」
夏樹
「何よ、それ……」
善夫
「……うん。事情が、色々あるみたいやねんけどな……」
夏樹
「でも、そんなの……」
夏樹
「(独白)それは常盤翔太が、私よりも中野ユリ子を選んだってことやんか……。その言葉を私は飲み込んだ。生まれて初めて味わう『せつない』という感情を、心の中でもてあましていた。そして、私は、とうとう気付いてしまった。こんなにも、常盤翔太を好きだということに……」
つづく
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