| 聞き手 |
何か、落語で『艶噺(ばればなし』がありますが、それを人形で... |
| 米朝 |
ああ、いっぺんやった... |
| 文雀 |
京都の然林房でね。 |
| 聞き手 |
鷹峯でしたっけ...。米朝師匠が語り手で... |
| 文雀 |
こっちが、人形遣うんですけど。 |
| 聞き手 |
ネタは? |
| 米朝 |
『故郷へ錦』や。 |
| 聞き手 |
本当に艶噺ですね。 |
| 米朝 |
(笑) |
| 聞き手 |
でもああいうもんは噺で、音楽はなく、人形だけですよね? |
| 米朝 |
いや、やっぱりね、音がしてないと...。あの時なんやったか... |
| 文雀 |
なんか弾いて貰うてね。 |
| 米朝 |
それもやっぱり『太(竿)』やないとあかんのやけど、『太』はないから、地唄の三味線なら何とかなる言うてね。 |
| 聞き手 |
音が重めですしね。 |
| 米朝 |
そうそう、やっぱり長唄の三味線では、よう人形遣わん。 |
| 聞き手 |
伺いましたら、100人限定で... |
| 文雀 |
そしてまた、その日がえらい雷が鳴って、嵐みたいなお天気で... |
| 米朝 |
そう、そう。そんなんでした。あん時ね、ピカピカ、ゴロゴロやった。あれいっぺんだけでしたけどね。 |
| 聞き手 |
もう次はなかったんですか? |
| 文雀 |
企画はあったんですけど... |
| 米朝 |
やれやれ言われたけど... |
| 文雀 |
『紀州飛脚』をやれとかね... |
| 米朝 |
そうそうそう |
| 聞き手 |
なるほど、ご注文、あったんですね。 |
| 米朝 |
やっぱりね、人形は一役出したら3人いりまっしゃろ... |
| 聞き手 |
文楽の人形は3人遣いですからね。主遣い(おもづかい) という方と、左手を使う左遣い(ひだりづかい)と足を使う足遣い(あしづかい)と。 |
| 米朝 |
けど、まぁ〜、若ければこそ、あんなことをやれたって(笑)もうこの年になってはやれまへんわ。 |
| 聞き手 |
40年ほど前? |
| 文雀 |
35〜6年ほど前ですね。 |
| 聞き手 |
戦後そういうお座敷で... |
| 文雀 |
心斎橋のあの辺、全部焼けてしまいまして、大丸さんから南の方にバラック建ちのお茶屋みたいのが、あちこち建ってましてね、そこで(二代目)春團治さんがね、駐留軍とか、あちらから来はったバイヤーなどのおもてなしによう艶噺をなすってね、そこへ手前どもの方の、私の先輩なんかがよう行きまして、遣っておりましたけどね、人形を。 |
| 聞き手 |
それは最初から艶噺なんですね。 |
| 文雀 |
そうです。浄瑠璃語りましてもね、そういうようなものでね... |
| 米朝 |
艶浄瑠璃は昔からあったらしい。 |
| 聞き手 |
あ、そうですか。僕らそういうもんは一切やらないと、修行に邁進するぞと... |
| 文雀 |
いやいや... |
| 米朝 |
そりゃまたアルバイトで... |
| 聞き手 |
(笑)夜なべですね。でも二代目(春團治)さんという方は非常にお芝居とかもお上手だったと伺いましたが... |
| 文雀 |
私も学校から勤労動員で行ってました。神戸製鋼の尼崎工場の課長をしておられた方が、西宮で大きな遊郭のね楼主だったんです。その方と二代目さんが心安うて、工場の中の慰安会なんかよく呼んで。そしたら噺をひとつされて、その後に『鹿芝居(噺家の芝居)』をなすってらっしゃって...。奥さんが細い綺麗な方だったんです。その方が『明烏』の遣り手のおかやをしてね、春團治さんが禿のみどりのして、裸になって大きなお尻を振ってね、叩かれたら「痛〜い」と言うてからにね客席を走り回ってはったのが、目についています。 |
| 聞き手 |
えらいご馳走のチャリですね。 |
| 米朝 |
あれはいっぺん松坂屋ホールでやったこともある。 |
| 聞き手 |
あ、そうですか。お芝居の素養もあったんですね。 |
| 米朝 |
あの人はね、好きやったね。 |
| 聞き手 |
でもでっぷり肥えた方ですよね。 |
| 文雀 |
体つきも顔もそりゃもう...(笑) |
| 米朝 |
あれが禿のみどりやるんやさかい、そりゃもう出てきただけで... |
| 文雀 |
顔からお腹からみんな真っ白に塗ってね、大きなお腹を丸出しにしてね、襦袢の合わせの間から... |
| 聞き手 |
さも見せるようにね。でも師匠、落語と浄瑠璃は関係の深いものですよね。 |
| 米朝 |
それはやっぱり、徳川時代から代表的な娯楽ですからな、浄瑠璃は。だから浄瑠璃のパロディみたいなのをやったら、みんな分かったわけなんや。さわりの文句なんかみんな知ってたわけですからな。いちいち説明いらんわけ。 |
| 聞き手 |
代表的なものでいうと『猫の忠信』であったりとか... |
| 米朝 |
ああ、落語にも仰山入ってますわな。 |
| 聞き手 |
元が分かってらっしゃるお客に聞かせるのと、分からない客に聞かせるのは違いますよね。 |
| 米朝 |
それはえらい違いですわいな。酒飲みのね、極道の母親のぼやきがそっくり『先代萩』のパロディになってるのかな。「三千世界の酒飲みの 親の心はみなひとつ 子の可愛さに毒なもの 飲むなと言うて叱るのに 毒と知りつつ... 死んでもよいというような 胴欲非道な倅めが またと一人あるものか」と言う、全部そのままのパロディやな。 |
| 聞き手 |
あんだけ子供を死なして悲しんでるところが、こんなパロディになるわけですね。 |
| 米朝 |
(笑) |