06/12/23、06/12/26〜06/12/30 放送 バックナンバー
何のための食事? 危機的日本人の食文化
ゲスト:
『イル・プルー・シュル・ラ・セーヌ』
オーナー・パティシエ・弓田 亨さん

聞き手:
戸石伸泰記者
 
アク抜き、下茹でで微量栄養素を捨てている!
身体の底から湧いてくる美味しさが消えた!
野菜の皮は剥かないで良い! 切る時は大きく!
イリコを残すと体が弱くなると怒られた
これだけ塩を毛嫌いし悪者にしている国もない
 日本人の食事からビタミンやミネラルといった微量栄養素が乏しくなっています。微量栄養素は私たちの体で細胞レベルの新陳代謝をコントロールする大切なものです。消費者ニーズに応えようと農業が効率化した結果、日本の土地に含まれる微量栄養素がどんどん失われ、おまけに間違った料理法が微量栄養素をさらに減らしているのです。今週は、日本の食の問題を訴える本を出版してこられ、今月も『記憶の中の母の味/命の健康を取り戻す四季のおかず62品』を出版された、フランス菓子の店『イル・プルー・シュル・ラ・セーヌ』のオーナー・パティシエ、弓田 亨さんにお話を伺います。
■アク抜き、下茹でで微量栄養素を捨てている!

 日本人の食事から栄養分がどんどん乏しくなっているというのは本当ですか?

 「これは公の数字でも、微量栄養素が昔と比べると激減しているというのは立証されているんです。でもそれ以上に、私は日本の微量栄養素が欠落している程度というのは、我々の想像を絶しているものがあるのではないかと思います。
 例えば日本の食料自給率は、カロリーベースで40%などと言われていますけど、微量栄養素の自給率は5%もいっていないんじゃないかなというぐらいひどい状態かなと思いますね」


 微量栄養素というのは、ビタミンとかミネラルですよね?

 「そうですね。量的にはいっぱい要らないんですけど、常にある一定量補給しなければならない、幅の広いビタミン類とミネラル類ですよね。
 これらは細胞を活性化させたり、細胞を新しく再生させたりするものでして、これが欠落してしまうと身体というのは本当に不調になってきます」


 そうすると、最近若い人を中心に、アトピーとかアレルギー系の病気が昔に比べて増えている気がするんですが、それらの原因かも知れない?

 「全く食べ物に原因がありますね。大体、アトピーになる原因というのは、私なりに把握できたつもりでいますけど」


 そうすると食材そのものの味も違ってきているんですか?

 「はい。味そのものも全く変わってきていますね。素材の味そのものも、微量栄養素が欠落しまして本当の味が失われてきていますけど、もっと人為的な要素で、素材からさらに微量栄養素を我々自身が意識的に欠落させてしまうという方向に、今の日本というのは行っていると思います」


 それは料理の仕方ということですか?

 「はい。料理の仕方はもちろんです。
 例えば、どの家庭でも、今、ごく当たり前にされているアク抜き、下茹でですね。これは、実はアクというものは何にもありませんで、私たちが何となく今までの流れの中で漠然と身体に良くないものと思ってしまったものでして、本当は私たちの身体が必要としているものなんですね」


 ホウレン草なんか、そのままアク抜きしないで食べたりしますと歯の裏に何かくっつくような感じがして苦い感じがするんですけど、あれは身体に悪くなかった?

 「確かにホウレン草なんかの場合、そういうアクはありますけど、実はそんなに身体に悪いものでもないんですね。今の野菜とか日本で産出される産物には、捨てて良いような微量栄養素、アクはありません。
 だから、戦後の色々な流れがあるわけですけど、いわゆる上品な味わい、澄んだ味わいという名の下に、私たちの身体が必要としているものがどんどん捨てられてきたんですね。
 例えば、アトピーや花粉症、色々な病気が問題になってきていますけど、最近、私どもの周囲で色々な人の話を聞いていますと、下茹で、アク抜きをされている、それもしっかりやられてきた家庭の子供さんというのはアトピーが非常に多いです。で、身体の弱い方が非常に多いです。これは、どうしようもない事実なんですね」

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■身体の底から湧いてくる美味しさが消えた!

 そもそも日本の食物から微量栄養素が乏しくなった原因は何でしょう?

 「原因は様々なものがあると思うんですが、私なりの考えでは、戦後、農地解放の下に、自立した農家ということで農地が細切れに与えられまして、結果として非常に生産性が構造的に悪くなった。で、経済成長とともに、都市の工業労働者、あるいはホワイトカラーの給与が上がっていく。しかし、農家の方は、耕地面積が狭いために生産性が上がらなかった。そこで、今度はその差を埋めるために、超集約農業と言いますか、手をかけて1個の商品の値を高くすることをやった。これは良いんですけど、その度が過ぎてやらなくて良いことまでやって素材を傷つけてきたっていう流れが1つあると思います」


 やらなくて良いことって、例えばどういうことでしょう?

 「例えば、皆さんが本当に美味しいと思っている、日本人の好きな霜降り牛肉ですね。あれだけ脂肪が体に入っているということは、牛も、何と言いますか、ほぼ病気なわけですよね」


 人間だったらメタボリック症候群どころじゃないですよね(笑い)?

 「そうですね。だから、そういう非常に具合の悪い状態の牛の体に、私たちの身体が必要としている豊かな望ましい微量栄養素が入っているわけがないんですね」


 なるほど、牛肉を食べるのは、単に蛋白質を摂るだけじゃなくて、一緒に微量栄養素も摂らなければいけない、本当は?

 「そうですね。我々人間も牛も哺乳類としての歩みがあるわけですから、共通している部分はありまして、やっぱり健康な牛の体であれば、私たちの身体が必要としている微量栄養素をいっぱい含んでいるんじゃないかなと思います。
 そういう流れの中で、美味しさというのが本当に歪められてきたんじゃないかなと思います。
 元来、美味しさというものは、私たちの身体が本当に必要としている微量栄養素をいっぱい含んでいるものに対するごく自然な反応と言いますか、『ああ、美味しい!』これが美味しさであって、『本当に美味しいのかなあ?』と考えなければいけないような美味しさというのは美味しさではないんですね。
 ところが、身体の底から湧いてくる美味しさというものは、本当に日本から消えてしまったように思いますね」


 ご本の中で書かれていた天麩羅の話によりますと、本来キスなど味の薄い魚を天麩羅にしても、本当は魚自体の味は感じないと書かれていましたね?

 「ですから、あれは、天麩羅それだけを長く食べ続けられるように無理やり出てきたものであって」


 天麩羅をコースで食べるみたいな時ですね?

 「はい。
 私たちの子供の頃、天麩羅というのは、芋とかかき揚とか、あるいはニシンとか、非常に味の強いもの、それでちょっと食べれば本当に充分だったんですよね」

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■野菜の皮は剥かないで良い! 切る時は大きく!

 乏しい栄養素をできるだけ身体に取り入れるための料理はどうしたら良いんでしょう?

 「私たちが当たり前としている料理がとても面倒臭くなり過ぎちゃっているんですね。
 料理というのは、鍋の中に素材を大きめに切りまして、あとは水と調味料を入れて加熱する。これが本来の料理なんです。家庭で毎日作る料理ですから。
 ところがそこに形式的な、アク抜き、下茹で、そういうものがいっぱい入ってきています。だから、もっと料理というのを簡単にして、余計な手間をかけない。そうすると逆に料理は美味しくなります」


 へえ〜、番組を聴いている主婦の方々は喜ばれると思いますが(笑い)?

 「だから、アク抜きもする必要はありませんし、わざわざ二度手間になる下茹で、こんなことしちゃいけないんですね」


 例えばお煮しめを作ろうという時に、野菜の皮を剥きますか?

 「皮は原則として私たちは剥きません。
 例えば里芋なんかは、もちろんタワシでしっかりこすれば良いんですけど、少し残っていてもどうってことないんですね。昔は皮を剥いていませんでした、里芋は。八百屋さんで、桶に里芋をいっぱい入れて、水を入れて、太い木の先に枝の切り口が付いたのでガシャガシャ混ぜまして、それで大体きれいにしたものを母なんか買ってきていまいたよね。
 その他、大根とか、そういうものは原則として剥きません。皮の所には、やっぱりより豊富なミネラル、ビタミン類が含まれていますし、すごく大事な所なんですね。
 でも、多くの方は、皮には農薬とかがいっぱい付いているんじゃないかと非常に不安がられますけど、確かに無農薬のものを作った方が良いんですが、私の考えとしては、よく洗って、皮の部分も食べて、細胞を強くして、農薬が入って良いわけではありませんけど、全てのものを皮も含めて食べて、何にでも太刀打ちできるような強い細胞を作るという風に考えています」


 切り方もザク切で良いんですか?

 「ええ、大きく切った方が美味しいんです。小さく切っちゃいますと、それぞれの素材が持っている旨味が汁の中に過度に逃げちゃうんですね。だから、例えば大根なら大根らしさがなくなっちゃいますから、ある程度大きく切って、外側の部分が煮汁の中に出る。中はしっかり大根の旨味を持っている。それで大きいと歯ざわりもしっかり残りますので、心とか感覚が『ああ、いっぱい食べた』という印象がより強くなるんですね。その方が、満足感が湧いてきます」


 煮る時に出汁をとりますが、ご本で一番のポイントだとおっしゃっていますね?

 「出汁と言いますと、ほとんどの方が旨みを足すものだと考えられているんですよね。例えばグルタミン酸ソーダとかイノシン酸とか、そういう要素を足して美味しくする。
 でもそれは、本来、私たちの先人がやってきた出汁の考えとは全く別物なんですね。いつの間にか変わっちゃいました」

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■イリコを残すと体が弱くなると怒られた

 「ですから私が子供の頃なんかは、必ず味噌汁にはイリコが入っていましたし、で、イリコというのは今のように頭やハラワタを絶対とっちゃいけませんでした。それを残すと怒られましたよね、体が弱くなるということで」


 出汁をイリコでとるのはわかりますが、出汁をとった後のシリコは捨てないんですか?

 「捨てちゃあいけません。まだまだ大事なものがいっぱい残っています、イリコの中には」


 お味噌汁の中にイリコが入っている?

 「食べなきゃいけないんです、それも。
 私なりの考えなんですけど、人間も、やはり生命の発生と進化の中で海の中の魚のような時期がありまして、それからさらに発展して今の形があるわけですけど、基本的には魚の時代の体内の微量栄養素の構成比と言いますか、特に日本人はすごく重なる部分があると思うんですよね。
 ですから、私たちの身体が必要としている多くのものが、完璧な形でイリコの全ての部分に含まれている。それが先人の経験によって積み上げられてきた知恵じゃなかったのかなあと思うんですね」


 出汁の次に味を調えるために、お醤油とかお酒とかミリンとか砂糖とか入れますよね?

 「もう砂糖は絶対入れちゃいけないですね」


 絶対ダメですか(苦笑)?

 「ダメなんです。今、家庭料理に砂糖を加えるのが、あたかも日本の固有の食文化みたいに考えている人がいますけど、これは本当に戦後20〜30年にできあがってしまった変な常識なんですよね。
 その背景としてあるのは、日本の素材から微量栄養素、つまり味がどんどん欠落していった。そして非常に形式的な下茹で、アク抜きの料理によって、さらに微量栄養素が欠落する。そうしたら今度は、食べ物は何にも味がしなくなってしまった。それで慌てて砂糖を入れ始めたというのが、私は間違いのないところだと思うんですね」


 逆に言うと微量栄養素が豊富な食物はしっかりした味があるんですね?

 「はい。ですから、私たちが子供の頃は、砂糖が料理に入るということはまずありませんでしたし、料理というものは微量栄養素をしっかり整えるという考えが、まだちゃんと残っていたんですね。
 砂糖を使わなくても、イリコとかそういう出汁を基本にして、昆布とか鰹節、これは一番出汁、二番出汁なんてやっちゃいけません、最後まで入れてそれを全部食べる、それで色々な旨味を重ねていきますと、ひとりでに私たちの身体が欲しがっていた甘味と言いますか、本当に身体が安心する味わいというのが生まれてくるんですね」


 ははあ、色々な食材を重ねることによって?

 「そうですね。ただし、あくまでもイリコを中心としてということですよね」


 イリコは、束ねる扇の要みたいなものですね?

 「そうですね。これが欠落していたら、何にもならないんですね」


 あと熱を加え過ぎるとビタミンなどは壊れてしまうと言われますが?

 「はい、その通りですね。ですから私どもの料理では、軽くフツフツ煮ます。やっぱり強い火で煮立たせてしまうとビタミン類というのは壊れてしまいますよね。
 玄米御飯を食べるにしても、よく皆さんは圧力釜で炊かれますけど、圧力釜はやはりビタミン類を壊してしまいますよね。
 あとは家庭の電子レンジですね。それから冷凍庫の普及というのが、やはりビタミン類を大きく破壊しちゃっているんですね」

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■これだけ塩を毛嫌いし悪者にしている国もない

 この度、『記憶の中の母の味』というご本を出版されたんですね?

 「12月の初めに出版いたしました。
 3年前に出しました『ごはんとおかずのルネッサンス』という本がありまして、これまで延べてきたような考えに基づいて作った本なんですけど、(当時は)まだ考え方が成り立ったばかりで、ちょっと不完全な部分というのがあったんです。基本的な考え方は全く一緒なんですが、より簡単により美味しくということで、1年間の四季のおかずを中心にして組み立てました。
 今の若い人たちは知らないわけなんですが、日本人がかつて持っていた味わい、その中に本当に身体の健康、心の健康を確立する味わいというのがあるというのが私の信念でして、もう1回、私の記憶の中にある味わいを、色々な微量栄養素が欠落してきた素材を使って、若干今までとは違った考え方と作り方を組み入れて、でもより簡単に、より美味しく、そんな風にして作り上げた本です」


 弓田さんは福島県会津地方のご出身で、失礼ですけど何年生まれですか?

 「昭和22年生まれです」


 そのお母様の味というのは会津地方独特のお味ですね?

 「そうですね。作っている料理なんかはかなり塩が効いています。
 多分、多くの方は、私が東北生まれなので、塩がきついなと思われるかも知れませんけど、それは私が東北生まれだからというわけではありません。私は、フランスとかヨーロッパのあちこちに行き来していますから、人間として必要としている塩の濃度だと思っています。
 砂糖をこれだけ使う民族もありませんけど、これだけ塩を毛嫌いして、塩を悪者にしている国もないと思いますね」


 高血圧症に塩は悪いとなっていますよね?

 「日本では戦後、化学生成塩NACLしか手に入らない時期がありましたからね。
 ところが、それまでは瀬戸内なんかの海塩を使っていたんですが、海の中は私たちの細胞が使っている体液とほぼ同じようなミネラル比なんですよね。ですから、そういうように微量栄養素をしっかり含んだ塩というのは、私はいっぱい摂らないとダメだと思っています。
 例えば子供が小さい頃、『塩を与え過ぎると、塩の好きな子になるからダメだ』と言いますけど、それもちょっとおかしな話だと思うんですね。離乳食なんかで、子供は塩の入っていないお粥なんかは食べません。でも塩を濃くすると、あっという間にパクパク食べ始めるんですよね。その頃の子供というのは、本当に生まれたばかりで、動物としての本能が鋭敏で、食べたくないもの、つまり身体に悪いものは食べません。それを食べるなという発想は、私はおかしいと思いますね。
 食育ということが言われて、『子供は理性が無いから』って言われていますけど、私はまず親を食育しないと、これはどうしようもないと思いますね」

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