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08/03/02 08/03/04〜08/03/08 放送 バックナンバー
JR福知山線事故から3年 科学的検証で本質に迫る!
 
ゲスト:同志社大学大学院教授・山口栄一さん
聞き手:藤崎健一郎アナウンサー
福知山線脱線事故の原因は線路軌道の設計ミス!
JR西日本は転覆限界速度を計算しなかった?
カーブの遠心力の計算は高校物理レベルでできる!
JR他社事例で福知山線事故は予見可能だった!?
科学的検証で本質に迫らないと事故は再発する!
 死者107人、重軽傷者562人の大惨事となったJR福知山線脱線事故からまもなく3年です。この間、事故原因について国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会が去年6月、最終報告書をまとめました。報告書は事故原因は運転士のブレーキ操作の遅れとJR西日本の会社内部にある懲罰的な日勤教育が背景にあると結論付けていて、列車を制御するATS=自動列車停止装置の整備の遅れや現場付近の急カーブへの付け替えについては指摘に止めています。なぜ列車は転覆し脱線したのか、原因究明に向けた科学的な検証が改めて問われています。今週は『JR福知山線事故の本質』という本を書かれた、物理学が御専門の同志社大学大学院教授の山口栄一さんに伺います。
■福知山線脱線事故の原因は線路軌道の設計ミス!

 『JR福知山線事故の本質』という本を読ませていただいたのですが、一部・二部に分かれていて、一部は被害者の重いお話がありまして、とにかく生々しい話だったのですが、後半は先生の事故の分析でまとめられています。この本を書かれるきっかけ、過程を教えていただきたいのですが。

 「ご存知の通り事故は2005年4月25日に起きました。あの時のマスコミの報道に対して、私自身は物理学が専門の学者として奇妙な違和感を覚えました。マスコミは『脱線事故』と言い続けました。そして『運転士のミスが原因だ』として『日勤教育』とか懲罰的な労務管理とか、間接的な背後要因ばかりを追っていました。
 でも、この事故は『脱線事故』ではなくて『転覆事故』だと私は何よりも思ったのです。『脱線』と『転覆』は意味が全く違います。『脱線』というのは、いろんな外的要因、線路のひずみや車輪や車体の整備不良など予測し得ない要因が存在します。『予見不可能性』があります。
 『転覆』というのは、いわゆる遠心力で転がる、純粋な古典力学的な現象なのです。線路の形状や走行半径を与えて、車体の重量や重心位置などを加えれば、時速何キロメートルで車体が転がって転覆するかということを、割と簡単に、理論的に求めることができます。つまり事故発生の予見は可能なのです。
 実際に私は『転覆限界速度』を求めてみました。すると時速106キロで転覆するという結果が得られました。これは実際に転覆が起きた速度と同じだと思ったのです。
 プロの設計士であれば、例えば地震が起きてもビルが倒壊しないように造るとか、洪水になってもダムが崩壊しないように造るということが当たり前です。線路軌道の設計士も直線での制限速度でカーブに入っても列車が転がらない、と軌道設計することが当たり前でそれができていなかったと思ったものですから、これはきちんと皆さんに、科学的な分析をしてそれを知らしめなければならない、と思いました。」


 マスコミや、事故調査委員会の最終報告書では『日勤教育』やスピードオーバーが原因、と言っていましたが、全く見方が違いますね。

 「全く違います。マスコミも事故調査委員会も事故の原因は運転士のスピードオーバーにある、としました。現象論的には確かにその通りです。運転士が制限時速70キロの急カーブで、スピードを時速105キロまでにしか落とさなかったのは事実です。
 でも、事故の本質はここにないのです。結論を言うと、107人が犠牲になって562人が怪我を負ったこの悲惨な鉄道事故の本質は、線路軌道の設計ミス、それに尽きます。」


 これは、どこでも言われたことがなかった新たな話ということですよね。

 「その通りです。」


 技術的な原因を詳しく教えていただきたいのですが。

 「事故は名神高速道路と交差した直後にある半径304メートルの右カーブで起きました。元来この事故現場の上り右カーブは、国鉄時代から元々半径600メートルに設計されていました。」


 上り右カーブというのは、伊丹方向からやってきて尼崎駅に向かっていく、大阪方面行きの線ですね。

 「ところがJR東西線が11年前の97年に開通しました。そこに福知山線が乗り入れられるように96年12月、高架の線路に付け替えられました。その時に、元々下り線(宝塚・福知山方面行き)は別の経路をたどって高架になっていまして、半径は304メートルでした。
 この下り線の高架の横に、ある意味、上り線を安直に配置してしまったということなのです。たぶん何も考察されていないと思います。そのことによって一体『転覆限界速度』がいくつになるかということは考慮されていないと思います。」


 下り線が元々あったから、その横に付けてしまえばいいだろうということですか?

 「その通りです。」

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■JR西日本は転覆限界速度を計算しなかった?

 「下りは尼崎から出発しますから、そんなにスピードが出ないわけです。」

 最初は高架を上っていくわけですね。スピードは出ていませんね。

 「ところが上りは、伊丹から事故現場まで約6.5キロありますが、ここは制限時速120キロのほぼ直線です。ですからこの中で運転士が間違いを犯したりしてしまったら、時速120キロのままでこの右カーブに入ってしまいます。これは容易に考えられます。
 そこで線路軌道を設計するエンジニアは時速120キロで入っても列車が転がり転覆を起こさないように設計しなければなりません。これは常識です。
 システムを設計するときには『人間は間違いを犯すものだ』と『人間が間違いを犯したとしてもシステムがそれをカバーする』という考え方で設計します。それがいわゆるプロの設計というものですね。」


 例えばカーブに制限速度が設定されていますが、それをオーバーしていてもまだ大丈夫だよ、という設計の仕方をするのですか?

 「その通りです。実際に初等力学で『転覆限界速度』、これ以上出すと転覆するという速度を計算してみます。そうすると、実際の事故の93人乗車の時には、半径600メートル(のカーブ)だったら時速148キロまで転がらないということが分かって、絶対に転覆事故は起きません。」


 これは96年の線路付け替え前の状況だったら大丈夫だった、ということですか?

 「そうです。ところが安直に付け替えてしまって、半径304メートルのカーブにしてしまった。この半径304メートルのカーブだと、転覆限界速度は時速106キロになってしまいます。
 だから、制限速度120キロで(電車が)やってきたときには必ず転覆するということになります。つまり、96年12月までの線路配置はそこまで良く考えて設計していたということですし、言い換えれば96年12月にこの右カーブを半径600メートルから304メートルに設計変更した時点で、この悲惨な転覆事故が起きることが確率1で準備されてしまったということになります。」


 確率1というのは?

 「つまり必ず起きるということです。その時点から未来のどこかの時点で必ずこの事故が起きるということが、準備されたということです。」


 たまたま起こったわけではない……。必ず事故が起こるカーブだったということですか?

 「その通りです。もちろん運転士が一所懸命がんばって、時速70キロを守っていればいいのですが、やはり人間はミスを犯しますから、誰かがミスを犯すわけです。たまたまあの2005年4月25日に当該運転士がミスを犯してしまった。それでこの確率1がまさに発生してしまった、ということです」


 あの運転士でなくても事故が起こる可能性が、十分に、間違いなくあったということですか?

 「その通りです。実際に事故調査委員会は、あの地区を運転する53人の運転士にアンケートを採っています。そのアンケートの結果によると、53人のうちの半分が時速120キロを出しても転覆をしないと思っていた、という結果が得られています。だから半分の運転士がその可能性があったということです。
 たぶん、JR西日本は転覆限界速度はいくらだったのか、ということを把握していなかったし。」


 把握していなかった?

 「把握していなかったし、算出していなかったと思います。」

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■カーブの遠心力の計算は高校物理レベルでできる!

 ここで車両の転覆のメカニズム、なぜ車両は転覆するのか、ということを教えていただきたいのですが。

 「皆さん、事故現場の右カーブを頭の中に想像してみてください。右カーブがあります。右カーブを曲がろうとすると、左の方向に綱を持って引っ張るようなイメージになります。」


 これは遠心力?

 「そうですね。綱を引っ張る力を遠心力だと思ってください。この綱を引っ張る力がどんどん強くなっていきます。強くなっていくとついに、重力に電車が負けて左に転がってしまう、ということになるわけです。
 どうやったら転がりやすいか、どうなったら綱を引っ張る力が強くなるのか、遠心力が強くなるのかと言うと、まず、乗客がどんどん増えると全体の重心が上の方に行く。つまり物が浮いてしまうような状態になりますので、遠心力が大きくなります。
 それからもう1つありまして、遠心力はカーブの半径に関係します。カーブの半径が小さくなればなるほど、つまりこの場合だと半径600メートルが半径304メートル、半径を2分の1、半分にしてしまったわけです。そうすると遠心力は強くなります。半径を半分にすると、遠心力はちょうど2倍になってしまいます。
 実際に事故当日、JR西日本の幹部は記者会見で、ここのカーブの転覆限界速度を時速133キロだと公表しています。もしも時速133キロだとしたら、(手前の)直線での制限時速120キロでカーブに入ってきても、転覆しません。
 どうしてこんな間違った値を出したのか、ということを調べてみると、事故調査報告書にきちんと書いてありまして、JR西日本は乗客0人として計算しているのです。そういう非現実的な仮定をしています。本来であれば定員が約150人ですから、150人乗車で計算すべきなのです。」

 それが1両目の乗客の数、最大ですか?

 「最大です。人数が多くなると重心の位置がどんどん上がってきて、転覆しやすくなるのです。乗客0人は一番転覆しにくい条件で計算しているのです。そういう非現実的な仮定をしてしまった。」


 回送電車の転覆速度を調べていたということになってしまうわけですね。

 「そういうことです。」


 93人が1両目の乗客の数。

 「93人乗車というのは車両内が割とすいている状態です。それでも時速106キロで転覆してしまう、転がるということになります。これが定員の150人乗車になると、もっと低い速度で転覆するということになります。
この転覆問題は、高校の物理で解けます。高校生が解くことができます。大学入試やその模擬試験によく出るのですよ。」


 えっ、そうなんですか!

 「不思議だと思うのは、JR西日本には2万5800人の社員がいます。当然中には数学が大得意の人やエンジニアもいるし、現場の運転士もいます。ですから、勘で分かるはずです。その中には当然、転覆限界速度がずいぶん低そうだぞということに気付いていた人もいるはずです。
 ところが文系優位のJR西日本ですから、経営陣にその声が届かなかった可能性があります」

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■JR他社事例で福知山線事故は予見可能だった!?

 JR西日本のカーブへの対策は、これまでも同じようにどのJR西日本の(線路の)カーブも乗客0で転覆限界速度を計算していたということなのでしょうか?

 「それは違います。実は何も求めていないようです。」


 求めていない、ですか?

 「この事故が起きて初めて、この計算を財団法人鉄道総合技術研究所(JR総研)に依頼して、計算させているのです。JR総研としては『そんな短時間で計算できない』と断っているのですが、JR西日本としてはそれを曲げてお願いしているのです。一番簡単な条件で、例えば『乗客0人でいいから計算してくれ』と計算させているようです。
 ということは、それまで直線が長く続いて突然急カーブがあるというところは、こういう転覆問題が必ずあるのですが、それについて何の考慮もしていなかった、と思われます。」


 ということは今走っている電車のカーブも、何キロが制限速度なのかということは科学的に何も検証されていない、どのカーブも。非常に危険な状態じゃないですか。

 「実は国鉄時代には、それはちゃんとなされていたようです。国鉄時代には、新幹線を設計した技術陣がいるのです。彼らは転覆問題にはずいぶん取り組んでいます。どうすれば転覆するのかということをずいぶん研究しています。
 実際に北海道に、転覆実験をするテストラインを造って、何百回と転覆実験をしているのです。国鉄時代はそれぞれのカーブで、絶対に転覆は起きないような設計がなされていたのです。
 ところがJR西日本になって、国鉄の中の研究者たちがJR総研ということで、財団法人で別の組織になってしまいました。ということはJR西日本には科学的な考察ができる人がいなくなってしまった。
 元々あの福知山線の直線部分は、制限速度は時速100キロとされていました。国鉄時代に安全を見越してそうしていたのです。彼らはこの右カーブで、元々半径600メートルでしたから、時速148キロまでは転がらないということにしていた。それでも安全を見越して、直線部分の制限速度は時速100キロにしていた。
 ところが、阪急等との私鉄との競争の中で、全く科学的考察なしに90年代になってJR西日本はこれを時速120キロに上げてしまったのです。それもやはり問題です。」


 でも120キロであってもカーブの半径が600メートルならば、まだ大丈夫だったのですね。

 「時速148キロまで転がりませんので。」


 そういう余裕がまだあったのですね。

 「しかも96年12月にわざわざ半径600メートルから半径304メートルの急カーブに切り替えてしまった、ということです。」


 そこで安全性がいつの間にか抜け落ちていたのですね。

 「その通りですね。もう1つ非常に不思議なことがあります。実は96年12月、急カーブに付け替える約2週間前にJR北海道・函館本線の半径300メートルのカーブで、ほぼ304メートルですね、実際に貨物列車が速度超過で転覆事故を起こしているのです。この事故状況は当時の運輸省からJR各社に連絡されています。
 JR西日本社内では、函館本線事故の3ヵ月後、97年3月に社長を委員長として『総合安全対策委員会』をつくって、他社における事故として正式に報告されています。ですから経営陣は、福知山線を半径600メートルから304メートルにしたことによって転覆するかもしれないぞ、ということを把握する十分な予見可能性があったということです。」


 分かっていたかもしれない、周りで同じようなカーブがあって事故が起こっていたにもかかわらず、自分の会社のカーブのチェックをしていなかったかもしれない、ということですか?

 「その通りです。」

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■科学的検証で本質に迫らないと事故は再発する!

 国土交通省の事故調査委員会の最終報告についてはどう思われていますか?

 「私が去年5月に『JR福知山線事故の本質』という本を、ある意味で緊急出版したのはひとえに事故調査委員会の最終報告書に間に合わせたいと思ったからなのです。事故調査委員会の委員の多くは大学教授で科学者なのですから、私の科学的な分析を読んで『自分たちは今まで、一体何をやっていたのだろうか』とはっと我に返ってくれて、今までの主観的で、本質に下りないような議論の弱さに気が付いてくれると思いました。
 ところが私の本が出版されたちょうど1ヵ月後、6月28日に公表された最終報告書には、物理学に基づく私の意見は完全に無視されて、結局マスコミのJRの間接責任論を追認するだけでした。これは本当に残念なことだと思います。」


 今お話を伺っていますと、未然に防ぐことができたのではないかと思うのですが。

 「明らかに未然に防ぐことができました。107人の方々は亡くならずにすんだし、562人の方々は怪我をせずに普通に社会生活を楽しむことができたはずです。通常のエンジニアが、本当に普通に線路の軌道設計を淡々と、きちんと行うだけのことだったのです。
 例えば薬局では、薬剤師はまず1人が調剤した後、もう1人別の人が必ずチェックしています。これは監査というのです。エンジニアの世界では当たり前のことです。この当たり前がJRでは行われていなかった。」


 行われていなかった?

 「そういうことです。」


 新型自動列車停止装置(ATS−P)をつけていれば良かったのではないか、という話もありますけれど、その以前の問題ですね?

 「その以前の問題です。確かにATSの配置も重要です。ATSがあるに越したことはない。ATSがあそこに最初からあれば、事故は確かに防ぐことができた。だけど、それ以前の問題として、まずは物理学に基づいて、運転士という技術の運用者がミスを犯したときにも重大事故が起きないように、線路軌道を設計するというのが、技術企業の基本中の基本です。」


 仮に新型ATSが故障していたとしても、転覆しないような設計にしていなければならない、ということですね。

 「その通りです。(カーブの)半径を600メートルにしなければならなかった、ということですね。」


 名神高速道路が走っていまして、あの橋げたがあるために半径600メートルで造る、もしくは半径300メートルのカーブでなければ造ることができなかった、という話もありますけれども?

 「これも不思議な議論で、実際に私は現場に行って、デジタルに地図をかなり大きく書いてみました。それで分かったのですが、現場の右カーブのすぐ横、西側の横になんと、幅員11メートルの非幹線道路があります。
 これはほとんど車が通らない道路なのです。両側がほとんど閉じられていまして、言わば空き地のような状態です。そこが公道になっています。
 半径600メートルを実際に書いてみると、ちょうどあまり使われていない道路の中に収まります。だから半径600メートルにすることができた、ということが言えます。」


 では本当に安易に(新しい上り線を下り線の横に)つけてしまった、という印象がより強くなってしまいますね。

 「その通りだと思います。これから警察の捜査がより期待できるところですが、少なくとも傍証からそういうことが結論付けることができます。」


 ヒューマン・ファクターや企業体質の検証だけでは、次の事故を防ぐことはできないのでしょうか?

 「はい、できないと思います。やはり、すべてこの事故を教訓にして、本質に下りるということを僕たちは学ばなければならないと思います。確かにヒューマン・ファクターや企業体質の検証はとても重要です。今回の事故でもそれは十分になされているので、それは心配していません。
 だけど、肝心な科学的視点が完全に欠如しているのが問題です。今のままの状態ではまたこんな事故が、鉄道だけではなくて、他の産業でも起こる気がしてなりません。」

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