毎週日曜あさ7時〜放送「堀江政生のザ・シンフォニーホール・アワー」

ザ・シンフォニーホールで行われる公演の聴きどころ、豪華ゲストを招いてのお話をクラシックの名曲とともに、堀江政生アナウンサーの解りやすい解説でご紹介します。クラシック通の方も、クラシックはまったくわからないという方も楽しんでいただける番組です。

堀江ブログ

2022年7月20日ザ・シンフォニーホールの情報誌「シンフォニア」Vol.52
「堀江政生のシンフォニア・アワー」vol.52
〜楽器って、震えているんですね〜 より

チェロをやっている長男のコンサートに、ABCラジオのリスナーTさんが申し込んでくださった。Tさんからはこんなお願いがありました。
“私は全盲で、楽器がどういう形をしているのかわかりません。触ってみたいです”
コンサートが終わった後、さっきまでチェロを弾いていた長男が座っていた椅子にTさんに腰かけてもらいました。そこにチェロを持って長男がやってきて、
「脚の間に挟むような感じです、膝を広げてください。体に向かって倒していきます。胸に楽器があたります。・・・・・これがチェロです」
Tさんはゆっくりと両手でチェロのボディを撫でながら、“わぁ”とため息のような声を上げました。
さらに全体の形を頭の中にたたきこむように下から上に向かって丹念に触っていきます。
そして、隣にいる私の方を向いて満面の笑みでうなずかれました。
「弾いてみますか」と長男。
戸惑っているTさんの右手に長男は弓をわたし、弦の上に置いた弓に手を携えて左から右へ。
“わぁ、鳴った!!すごい振動が体に伝わります!!!”
「左手で弦を押さえて音を変えます。やってみますか」
“わぁ、本当だ。変わった。すごく指に力がいるんですね!”
この間私は、一番上の部分(ヘッドの先)を右手で持って支えていたのですが、Tさんとおなじように凄まじく細かい振動を右手に感じてびっくりしていたのです。

我が家にチェロがあるようになって20年以上、幾度も触っていたのですが、音が鳴っているそれに触れたことはなかった。

恥ずかしながら楽器が音とともに出している振動には全く気付いていなかったのです。
「あの振動を極力脚や胸で止めずに、できるだけ床に伝えるように弾いているんだ」
あとで、長男に尋ねるとこんな言葉が返ってきました。
Tさんの好奇心が私自身の気付きに。右手に伝わる振動に心を共鳴させていたのは、まぎれもなく私だったのです。Tさん、ありがとう。

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