ぴたっと・ジャーナル

放送日:2010年9月9日(木)

新発見のチャップリン映画 その鑑定人が語る!

ゲスト:
日本チャップリン協会会長 大野裕之さん

 世界の喜劇王、チャールズ・チャップリン。今年7月に、今まで知られていなかったチャップリンの出演映画がアメリカで見つかって、世界的な話題になりました。『A THIEF CATCHER(泥棒を捕らえる人)』という作品なのですけれども、何故、チャップリンの死後30年もたった今になって、チャップリン映画が新発見されるのか? きょうは日本チャップリン協会の会長で、チャップリン映画のNGフィルムなど、全てをご覧になったという大野裕之(おおの・ひろゆき)さんにスタジオにお越しいただきました。

(マコーマック)日本チャップリン協会には、何人くらい会員さんがいらっしゃるんですか?

(大野)「1000人くらいいると思います。ファンクラブみたいなもので・・・」

(マコーマック)今回7月に見つかった映画は、どんな映画なのですか?

(大野)「これはちょっと専門的な話になるのですけれども、チャップリンは1914年、24歳のときに映画デビューしているのです。
 元々、イギリスの舞台芸人さんで、20年間、5歳の時からずっと舞台芸人さんをやっていた。そして、アメリカにツアー公演で行って、『映画の方がもうかりまっせ』といわれた。じゃあ映画というものに出てみようかと思って、『キーストン』という当時の映画会社に入ったのです。
 そこは、超アメリカ的なドタバタの映画会社で、そこの売り物のシリーズが『キーストンコップス』といって、ウワーッと警察官が出てきて追いかけっこが始まるというドタバタの映画シリーズだったのです。
 チャップリンはその映画会社に入ったので、その『キーストンコップス』の警察のシリーズにどうやら何本か、2〜3本出演したというのは、ご本人が今までいっていたのです。もちろんチャップリンはチャップリンとして、例のちょび髭の格好でデビューして、何週間かでスターになる。ご自身の主演映画は、ちゃんと作っていて、それは初年度に35本作っているのです」

(マコーマック)1年間で?

(大野)「今でいうテレビみたいなものですからね。それとは別に、人が足りなくなった時とかに、別の現場、要するに警察官の追いかけっこの映画に『出演してくれって』いうのがあったらしいと・・・。でも、今までそれは確認されていなかったのですよ」

(マコーマック)映像として残っていたかどうかが・・・

(大野)「そうそう。でもご本人は警察のそういったドタバタの映画に2〜3本出演したといっていて、それがどれかわからなかった。それがたまたま今回見つかったという話です」

(マコーマック)しかもアメリカのミシガン州の古物市か何かで発見されたと・・・

(大野)「そうなのです。だから9000円くらいで誰かが買ったと・・・」

(マコーマック)でも価値としたらそんなものじゃないですよね。

(大野)「いや、とんでもない価値ですね(笑)」

(マコーマック)ですよね。大野さんはその映画をご覧になったのですか?

(大野)「そうなのですよ。実は『A THIEF CATCHER』という映画は、1930年代にある研究者が『A THIEF CATCHER』という映画にチャップリンが出ていますという論文を書いたのです。
 でも『A THIEF CATCHER』という映画を、他に誰も観ていないので、『ほんまに出てるのかいな』とずっといわれ続けていたわけです。
 見つかってないものは出たといわれませんから、チャップリンの出演作で初年度の作品は35本だといわれていた。ところがこの度、『A THIEF CATCHER』が見つかって、ある研究者がそれを古物商で見つけて、ほんまかなと思って観てみたら、確かにチャップリンが出ている。これは本当にチャップリンかどうかということで、世界の研究者5〜6人で手分けして確認したのです。実はこれ、去年の12月に見つかっていました」

(マコーマック)そうなのですか。

(大野)「そうなのです。実は、その世界で5〜6人の鑑定士のうちの1人が私でございまして・・・」

(マコーマック)えーっ! すごいじゃないですか。世界の中の5人ですよ。それくらいチャップリンに詳しい。実際ご覧になってどうでしょう? やっぱり本物?

(大野)「本物です。これはよく間違えるのです。というのは、チャップリンは真似しやすいでしょ。とりあえず髭つけて、ちょこちょこしていたらチャップリンに見えるじゃないですか。だからごくたまに、チャップリンの未発表の作品が見つかったといって持ち込まれて、間違って、例えばヨーロッパとかでテレビ放映されたりするのですよ」

(マコーマック)それはそっくりさんが。

(大野)「そっくりさん、ものまね芸人が多いのですよ」

(マコーマック)チャップリンのね。

(大野)「ええ。当時のメキシコにはチャーリー・アップリン、ドイツにはチャーリー・カップリンとか、『あんた、大人なめてんのか』というような名前の人が・・・」

(マコーマック)そういう芸名をつけて・・・

(大野)「芸名をつけて、物まねをしていたわけです。だから今回もアップリンやカップリンではないかということで、一応鑑定ということで、みんな観たのです」

(井之上)どう見分けるのですか?

(大野)「やっぱり独特の動きがチャップリンらしいか。あるいは1914年ですから、その時のチャップリンの体型で、チャップリンの動き。かつ、髭の大きさも見分けるポイントになります」

(マコーマック)ということは、長年チャップリンは同じ幅の髭?

(大野)「同じ髭ではないです。違うのです。初期の頃のほうが若干大きくて、1915年くらいが一番“でかい”かな。だんだん小さくなって、1928年が一番小さいですね。とか、いろいろあるのですよ。あれはご本人の髭じゃなくて、アザラシの毛か何かですからね」

(マコーマック)知らないことが多いですね。今回見つかった、およそ10分の短編映画。3分ほど間抜けな警官役で出演していて、今後DVDで発売される予定だということです。

(大野)「そうですね。10月か11月にアメリカで先行発売されると思います」

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(マコーマック)チャップリンというと、今、紹介したようにちょび髭、それから山高帽につんつるてんの上着に擦り切れたチョッキ、だぶだぶズボンにドタ靴にステッキというスタイルが、いわゆるチャップリン。でもこのスタイルを確立したのはいつ頃なのですか?

(大野)「よくいわれるのは、1918年に『犬の生活』という映画があって、あるいはそのあと1921年の『キッド』という映画があります。やっぱり『犬の生活』では、虐げられた野良犬と肩を寄せ合って共に生きていくという、いわゆる弱者にやさしい放浪紳士チャーリーが誕生した傑作といわれているのです。
 それはデビューして4〜5年経っていますから、1918年にチャップリンは自分の撮影所を建設して、誰にも邪魔されずに、心ゆくまで映画を作ることができる。それまで短編映画を、1週間に1本作っていたのを、ものすごく長い時間をかけて作るようになるわけです。
 それまでチャップリンは1914年にデビューした時は、人の会社に入って、映画デビューしましたから、どんどこどんどこ、1週間に1本、それこそ追いかけっこで、ドタバタ喜劇に出ていたわけです。しかしそれでは嫌だと。
 つまりアメリカの喜劇は、本当に追いかけっこ追いかけっこの連続だったので、チャップリンはイギリス出身の舞台俳優ですから、やはりじっくりと個性を見せたいという欲望があったのでしょうね。それでだんだんチャップリンらしさが出てきたのだと思います」

(マコーマック)そのスタイルは本人が全部決めたのですか?

(大野)「そうですね」

(マコーマック)やらされたのではなく?

(大野)「やらされたのではなく。とにかくチャップリンは小さい人でしたから、映画デビューするときに、当時の上司に『何でも良いから、コメディーの格好してこい』といわれたのです」

(マコーマック)それで、その格好になったのですか?

(大野)「そうです。自分は若く見えるから髭をつけようと。それと、ちぐはぐにしてみようと。きつい上着に、だぶだぶのズボン。小さい帽子に、でかい靴とか。そして全部ちぐはぐにしてみようと。でもそれが本当にうまくいったというか、やはりチャップリンのキャラクターそのものが、放浪者にして紳士というか、非常にちぐはぐで、多様性、多面性がある。やっぱりキャラクターにも生かされている。コスチュームが最大の発明だったのでしょうね、あれが」

(マコーマック)そうですね。今回その『A THIEF CATCHER』という映画が発見されたのですけれども、これからももしかしたら新しい作品、チャップリンの映画が見つかる可能性はあるのですか?

(大野)「ご本人はそういった『キーストンコップス』警察の初期のドタバタの映画に2〜3本出たとおっしゃっているのです」

(マコーマック)じゃあ、今のところ1本?

(大野)「今のところ1本でしょう。で、チャップリンの記憶力はすごいのですよ。例えば5歳の時に、お兄さんが船に乗って、そこから船乗りとして仕送りを送ってきてくれたというのが、びた一文違わず覚えていたり。ものすごい記憶力なのです。本人が2〜3本出たっていうのは、これは100%確実なのですよ」

(マコーマック)どこかに眠っているかもしれないですよね。

(大野)「そうですね」

(マコーマック)これは会長としては、ぜひとも探し出したいですよね。

(大野)「そうですね。本当にね」

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(マコーマック)実は大野さんは、NGフィルムも含めて、全ての映像を観ていらっしゃるのです。NGフィルムが存在していたことすら私は知らなかったのですけれども、どうやって、どこでご覧になったのですか?

(大野)「チャップリンは本当に完璧主義者で、例えばお茶を飲むシーンだけでも20回ぐらい撮り直したってことでも有名です。だから大量のNGフィルムが出たというのは、よく知られているのです。それがどうやらロンドンに眠っているらしいということを聞きつけまして、私が22歳か23歳の時に、まだ大学院だったのですけども、当時、京都大学で映画の研究していたのです。
 すると大学院に入った時に、当時の大学院の先生が、チャップリンはよく知られているから、よほどの資料が見つからない限り、研究を続けたらだめだよといわれたのです。むちゃくちゃ知られているから。
 じゃあ俺が見つけてやろうやないかと思って、ロンドンに渡って、国立映画研究機関に行って、受付に『ここチャップリンのNGフィルムありませんか?』といったら、『確かにありますよ、ここに』といわれたので、見せてくださいといったのですよ。すると向こうはびっくりして、『なんでお前なんかに見せなあかんねん』と(笑)」

(マコーマック)貴重なものですもんね。

(大野)「貴重なものですから。どうもイギリスの暗黙の了解で、向こうにも淀川長治先生みたいな方がおられて、その人しか見ちゃいけないものになっているようだったのです。それぐらい貴重な映像で・・・。僕はイギリスのそんな暗黙の了解なんか知りませんから、『いいから見せてください、見せてください』って半年ねばって、じゃあ見せましょうと・・・」

(マコーマック)ねばり勝ち?

(大野)「ねばり勝ちですね。それで観たのですよ。
 するとイギリス人のことをどうこういうわけじゃありませんが、僕らの方が暇で几帳面ですから。22〜23歳でしたから。その書いてあるリストと中身が違っていたのです。
 つまりNGフィルムを観て、この中身はおたくのリストではこうなっていたけれども、実際はこうでしたよって表に書いて渡したら、それが喜ばれて『大野さん実はこれもありまして』と、『整理整頓してください』とかいわれて、それで全部観ることができました。2年くらいかかりましたけどね」

(マコーマック)へぇー。NGフィルムだけで2年間・・・

(大野)「見ると、チャップリンは聞きしに勝る完璧主義。
 例えば、普通にお茶飲むシーン。面白いギャグを2分くらいやっているのですよ。ところが何回も何回も撮り直しているうちに、最後は10秒になっている。
 これは、チャルさんは演劇、お芝居をおやりになるから、おわかりになるとは思いますけれども、普通、途中で面白いことが浮かんだら、だんだん長くなったりすることって往々にしてあるじゃない、面白いギャグが浮かんだりすると。
 チャップリンは逆なのですよ。最初に面白いギャグの泉がもう既にあって、どんどん煮詰めていって、それが最後に10分の1くらいになっている。これは感動しました」

(マコーマック)その全ての映像を観た人は、世界で3人しかいないのですって? その中のお一人なのですよ。しかも大野さんは『劇団とっても便利』の代表で脚本家でもいらっしゃる。ですから演劇人にとっては、このチャップリンの製作手法っていうのも、きっと役に立つものもあったのでしょうね?

(大野)「それもイエスでノーですね。つまりイエスとしては、(チャップリンが)あれだけ何回も撮り直して、完璧主義というのは、『あれだけの作品がこれだけ苦労して作られている』と思ったら、少々のことではへこたれなくなりましたよね。人間苦労せなあかんのやと。やっぱりあれだけの天才が、うまくいった時はものすごく子どもみたいに喜んで、うまくいかない時は当り散らすというのは、『やっぱりそうか、人間努力せなあかん。苦労せなあかん』というのはよくよくわかった」

(マコーマック)なるほど。チャルさんもそうやで(笑)

(井之上)もっと苦労せなあかん。大野さんは、僕より(年齢が)1つだけ上なんですよ。

(マコーマック)私より2つ下ですからね。

(井之上)しっかりしてる。

(大野)「しっかりしてるって(笑)」

(マコーマック)今、大野さんがチャップリンに関して調べていることとか、今年チャップリン関連で活動する予定とかはあるのですか?

(大野)「10月末にアメリカでチャップリン国際会議があります。4日間に渡って、オハイオ大学で世界の研究者が語り合う。そこに行って、講演をしてきます。
 それから近著としては、『チャップリンの影〜日本人秘書・高野虎市〜』という本を講談社から出しました。これはチャップリンの秘書が日本人だったのです。高野虎市という面白いおっちゃんが、秘書を18年間やっていたのですが、その伝記を書きました。これは非常に面白い人です」

(マコーマック)その日本人の話だけでも、次の機会にたっぷりとお伺いしたいですね。

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