ぴたっと・ジャーナル

放送日:2011年1月12日(水)

柔道で、何故子どもたちが死ななければならないのか?

ゲスト:
全国柔道事故被害者の会会長
小林泰彦さん

 去年11月、大阪市此花区の柔道教室で、小学1年の男の子が男性指導者との練習中に意識を失い数日後に死亡するという事故がありました。実は日本では、柔道による事故で、毎年のように子どもたちが死亡しています。亡くならないまでも重い後遺症に苦しむ子どもたちもいます。柔道が盛んなフランスやドイツ、アメリカなどでは青少年の死亡事故は起きていないのに、何故、日本では死亡事故がなくならないのか? きょうは、全国柔道事故被害者の会の会長、小林泰彦(こばやし・やすひこ)さんにお話を伺います。

(加藤)柔道での事故がこんなにもあるものなのだと、私は初めて気付かされたというのが本音なのですが。どれくらい子どもたちの死亡事故があるのか、実態をまず教えていただけますか?

(小林)「どなたもこの事実を知らないと思うのですが、この28年間に、小・中・高校生116名が死んでいます。昨年、今、お話しがありました此花区の小学1年生が亡くなりましたが、去年7名の子どもたちが亡くなっています」

(加藤)どういったケースでお亡くなりになることが多いのでしょうか?

(小林)「死亡事故ですので、脳に対するダメージで死んでしまう子どもたちが多いです。脳損傷、熱中症などがその代表的なものです。特に脳損傷に関しては65%の原因で、子どもたちが亡くなっていっています。
 残念ながら、その亡くなる子どもたちは、初心者に集中しています。例えば、中学1年生、高校生も、その初心者に集中しているのが現状です」

(加藤)柔道をやり始めて間もない子たちが亡くなるケースが非常に多いと・・・

(小林)「そうです。しかも肉体的には、頭のダメージが問題です。直接頭に衝撃がなくても、投げ技を原因として揺さぶられて、加速損傷というような原因で、子どもたちが多くの命を亡くしています」

(加藤)投げられて頭を打って亡くなるというものとは違うのですね。揺さぶられて加速損傷というものが起こる?

(小林)「加速損傷というものは、投げ技によって起こってしまいます。頭蓋骨の中で脳は静脈を通してぶら下がっている状態なのですが、そのぶら下がっている脳が、柔道の投げ技で回転加速が発生して、脳がぐるっと回ることに よって、静脈が切れる。静脈が破断されることを加速損傷といっています」

(加藤)もし、この加速損傷になると、体はどのようなことになってしまうのでしょうか?

(小林)「ひどい時には即死状態になってしまいます。脳の中で静脈が切れますので、非常に重篤な状態になります。
 うちの息子のケースをご紹介しますが、2004年、当時神奈川県横浜市で中学3年生だったのですが、三男の息子が加速損傷で脳に障害を負いました。相手は講道館杯の優勝経験のある顧問だったのですが、柔道初心者の息子は、7分間ぶっ続けの乱取りだとか・・・」

(加藤)乱取りとはどのようなものですか?

(小林)「投げ技を続けると・・・」

(加藤)7分間にわたってずっと?

(小林)「ずっとやりました。その間に絞め技を2回かけられまして、気を失っています。その7分間の過程の中で、回転技が原因で、脳の奥の方の静脈のラベ静脈が切断されてしまいました。緊急手術を実施しまして、奇跡的に一命を取り留めることができました。
 しかし、一命を取り留めたのですが、記憶の部分が破壊されていまして、現在、高次脳機能障害という後遺症で苦しんでいるというのが実態です。
 うちのケースはまだ生きているのですが、亡くなってしまう方が非常に多いということです」

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(加藤)何か本当に胸が痛む話なのですが、海外でも柔道は盛んですよね。
 日本と同じように海外でもこのように死者は多いのでしょうか?

(小林)「海外の柔道は非常に盛んで、オリンピックなどでも海外の選手が優勝したりします。
 私の妻が、友人の支援の下、海外の柔道連盟や、柔道連盟に属している医科学委員会に直接問い合わせた結果、フランス、イギリス、ドイツ、アメリカ、カナダ、オーストラリアでは死者がゼロなのです。死者がいないのです」

(井之上)日本だけなのですか?

(小林)「そうなのです」

(加藤)なぜ、こんなに違うのでしょうね?

(小林)「例えばフランスですが、人口は日本の2分の1らしいです。ところが柔道人口は日本の3倍。率でいうと日本の6倍の柔道人口がいるのですが、死者ゼロです。
 フランスだけでなく、ドイツは日本の人口の5分の3なのです。柔道人口は日本の2倍です。それほど柔道をする方がいらっしゃるのですが、死者や重篤な事故、事件は起きていないのです」

(加藤)では、海外で柔道をされている方からすれば、日本のこの死亡率の高さは異常に映るでしょうね?

(小林)「海外の柔道連盟の方や医師に状況を訊いたのですけれども、向こうの柔道家には、日本でこれだけ異常に死者が出ているということに対して、理解できないという。びっくりしています、日本の状況を。それが実態です」

(加藤)根本的な教え方の違いになるのでしょうか?

(小林)「例えば日本で事故が発生しますと、すぐに『偶発的な、偶然の事件、事故だ』というような対応になってしまいます。特に学校の中で事故が発生しますと、残念ながら事故自体の隠ぺい工作が、学校や教育委員会によって行われてしまって・・・」

(加藤)責任問題になって?

(小林)「責任問題になりますので、隠ぺいが非常に強く行われます。そのために科学的なとか、合理的な原因分析が行われていないというのが実態なのです。
 合理的な対策や具体的な対策がないままに、安全の講習会、安全指導の講習会が行われています。いくら安全講習会が行われたとしても、残念ながら事故防止にはつながらずに今日に至り、毎年毎年、子どもたちが多くの命を失っているというのが実態なのです」

(加藤)なるほど。柔道というと精神論、根性論という部分も、なんとなくイメージとしてあるのですが、そういった練習の実態も影響しているのでしょうか?

(小林)「結構、精神論的、根性論的な考え方がまだまだ根強くあります。
 例えば、先ほどご紹介がありましたが、昨年11月の大阪市此花区の小学1年生が死亡した件でも、1年生は吐き気を訴えていたのですね。にもかかわらず指導者は、『途中でやめると根性が育たないと思った』と練習を継続した。
 結果としては死んでしまった。
 小学1年生が吐き気を訴えていた。そのような状態で根性論が出てくるというのは、ちょっと常識的には考えられないと思います」

(加藤)本来、SOSを発した段階で、指導者は察知しなければならないところですよね。

(小林)「と思うのですね。このような事例は他にもあるのですが、例えば2007年6月、広島で中学1年生が急性硬膜下血腫で死亡しています。
 このケースも頭、後頭部を強打して、中学1年生ですが、頭を抱えていたのです。そのような状態にもかかわらず指導者は、練習の続行を命じたのです。
 さらに、この中学生は投げられて、結果的には死んでしまいました」

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(加藤)痛ましいですね。そういった事故が後を絶たない中、小林さんを始めとする被害者の会は、現在どのような活動をされているのでしょうか?

(小林)「第一に再発防止をしたいなと。二度と子どもたちが死ぬだとか、大ケガをするだとか、そのような状態を再発させてはならないと、そういう活動をやっています。
 具体的には文部科学省や柔道連盟、医師、教育者、法律家の方々に対して、再発防止のために立ち上がってくださいと。諸外国のように死亡事故をゼロにできるはずだから、再発防止策を作りましょうと。そのためには、専門家による、合理的な、科学的な原因分析を行って、具体的な対策、実行策を作って、現場に徹底しようじゃないかと。そのような提言を行っています。それが第一番目です。
 二番目としては多くの子どもたちが死に、後遺症に悩んでいます。その被害者の支援、または、そのような子どもたちを抱えている家族、亡くしてしまった遺族の方々に対する支援も、当然のことながらやっています。この2点が我々の主たるアクティビティです」

(加藤)聞くところによりますと、来年度(2012年度)から、武道が中学校で必修化されるそうですね?

(小林)「来年の4月から、中学校において武道の必修化が実施されます。柔道、相撲、剣道の3種類が対象になります。私たちは非常に、来年の4月を恐れています。
 現在、具体的な安全対策がなされていないと私たちは認識していますので、今年中に、今年度中に具体的な再発防止策に対する行動を起こさないと、現状のまま来年を迎えてしまう。現状のまま来年を迎えてしまうと、何も改善されずに、子どもたちに武道必修化という環境の中で、学校生活を送らせなければならない。子どもたちの命をどうすれば守ることができるのか、ということで、来年の4月に対して非常に危機感を持っています」

(加藤)そうですね。私も気にかかったのは、柔道にまつわる事故で、柔道初心者に被害者が非常に多いということなのです。必然的に必修になった場合、すそ野が広がるわけですよね。そういった時に、指導者の1つの判断ミスで、被害に遭う子どもたちが多く出てきてしまう。ここが非常に心配されるところですよね。

(小林)「私たちの会として、ぜひとも皆さんにご理解いただきたいのは、全国柔道事故被害者の会としては、柔道を非難しているのではないのです。私たちは子どもたちを死から守りたい。それを強く主張したいのです。
 それで海外の状況を見ますと、死などという状況を生まずに済むのです。健全な柔道を実現できると思っています。その実現のためにも、私たちはシンポジウムなどを開いて、活動をしているということが実態です」

(加藤)そこで1月15日(土)12時半から、大阪市阿倍野区の大阪市立生涯学習センターで、シンポジウムが開かれるということなのですね。

(小林)「シンポジウムは、昨年、会を発足しまして、1回目が東京、2回目が長野、3回目が(今回の)大阪ということになります」

(加藤)ここでも、ご家族が事故に遭われた小林さんのお立場としても講演があるということです。

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