ぴたっと・ジャーナル

放送日:2011年2月1日(火)

12万人の叫び!道半ばの無年金障害者への救済

レポート:ABCニュースセンター・天本周一記者

 事故や病気で障害者となってしまった人を支える制度に、思わぬ落とし穴が存在しています。20歳以上の障害者に対して国から支払われる障害年金。受け取っている人は、現在、全国でおよそ180万人に及びます。しかし同じように障害で苦しみながらも、この障害年金を受け取れない人が、実に12万人もいます。なぜこのような差が生まれてしまうのでしょうか。救済をする手立てはないのでしょうか。
 きょうは、障害年金を受け取れない障害者や、介護をする家族を取材し、それぞれが抱える苦悩や訴えたい思いを伝えるドキュメンタリー番組を制作した、ABCニュースセンターの天本周一(あまもと・しゅういち)記者に、この問題について聴きます。

(加藤)今も紹介しましたが、天本さんはABCテレビでおととい放送された“テレメンタリー2011”の中で障害年金についての番組を作ったということなのですが、なぜ今回、障害年金をテーマに選んだのでしょうか?

(天本)「僕自身は6年くらい前から年金問題を中心に、社会問題になった“消えた年金問題”などを取材してきたのです。それは全て老後のための年金、“年金=老後のため”だと思っていたのです。実は年金には老後のための老齢年金と、夫などが亡くなったときに子どもや妻に支払われる遺族年金、障害を負ったときに支払われる障害年金の3つの役割があるということを初めて知りました。
 ある年金の取材に行ったときに、車いすを抱えた女性に『私は障害年金をもらえない無年金障害者なのです』と訴えられている方がいらっしゃいました」

(加藤)無年金障害者。

(天本)「そのキーワード自体わからなかったので、『無年金障害者とは何なのですか?』とその女性に聞くと、先ほど言った3つの年金のうちの『障害年金をもらうことができない障害者のことなのです』と。『何人くらいいらっしゃるのですか?』と聞くと、『12万人くらいいます』ということで、『えっ!』という話になりました。それがきっかけでした」

(加藤)恥ずかしながら私も、何らかの障害をお持ちの方は割と手厚く保護されているのかなと思っていたのですが、実態としては違うケースがあると。

(天本)「僕も遊園地や美術館などの入口で、『障害者手帳を持っている方は割引』というような表記がよくあったので、障害者には何らかがもらえるのだろうなと思ったのですが、取材をしてみると20歳未満で障害を負った場合は20歳になった時点で無条件で障害年金がもらえるのですが、20歳以上で障害を負った場合は条件が課せられていると。
 それはあまり知られていないのですが、年金の3分の2以上の支払いをしておかなければならない。例えば40歳の方で病気などで重い障害を抱えた場合は、20〜40歳までの20年間のうちで3分の2以上払っていないと、それに1ヶ月でも足りないと障害年金がもらえないという条件が課せられているのです。
 実際に僕が番組で取り上げたのは26歳の無年金障害者で、21歳の時に事故にあったのですけれども、その条件に3ヶ月足りなかった」

(加藤)3ヶ月未納だった。

(天本)「3ヶ月未納だったということで、障害年金が一生もらえないので、その人は26歳で重い障害を抱えていて、病院に入っていなければならない。毎月の入院費が7万円かかるのです。
 その方の場合、あと3ヶ月納めていれば、2級の障害年金が66000円(1ヶ月あたり)もらえていたので、もらえていれば入院費が賄えるのですが、それが賄えないので、お父さん、お母さんたちがずっと毎月その7万円を払っていかなければならない。
 そうすると家族の、障害を持つ子どもを抱えているだけではなくて、リアルにお金が足りないということで苦しんでいることを番組にしました」

(加藤)その26歳の方は3ヶ月分足りなかった。では、事故にあった時点で『今この3ヶ月分払いますから年金をください』ということにはできないのですか?

(天本)「それも僕は知らなかったのですが、国民年金の場合は、今の時点から2年分はさかのぼって払うことができるのですが、障害年金というのはダメなのです。さかのぼって払うことができないのです。
 僕もそこで“えっ!”と思ったので、取材の最初に厚生労働省に電話をして、『どうしてこういうケースはもらえないのか』と、『障害年金はどうしてさかのぼって払えないのか教えてもらえませんか』とたずねました。
 『これは公には言えないのだけれども、例えて言うなら火事を想像してみてください。家が火事になったときに火事になったあとで、火災保険をかけてそれで保険金をもらっていたら不公平じゃないですか。だから障害年金も同じ理屈なので、障害になったあとにお金をかけて、障害年金をもらったら、誰も年金なんてかけないじゃないですか』と答えました。
 『いや、ちょっと待ってください。障害と火事は違うじゃないですか』と。
 ちょっと難しい話になるのですが、年金の中の基礎年金の部分の半分は保険料で、もう半分は僕らの税金から出ているのです。『公的なものだから、障害と火事を一緒にするのは、問題なのではないですか』と、『そう思うのであればテレビのインタビューに答えてくださいよ』と話したのですが、『それはちょっと言えないです』と答えました。
 言えない理屈を今そのようにみんなの前で、これは障害者の前でも言っている話らしいのです。障害者のみなさんに聞くと。『それをちゃんと説明したほうがいいのではないですか』と言うと、『それは一つの例え話なので。でもわかりやすかったでしょう』と言われました。
 それが本当に『これはおかしいな。じゃあ番組を作ろう』と思ってドキュメンタリーの番組を作りました」

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(加藤)ただ毎日のように無年金障害者が生まれているというのは、今の日本の事実なわけですよね。

(天本)「そうですね。調べてみると国民年金の未納・未加入者は全国で330万人くらいいらっしゃって。その方たちすべてではないのですが、その方たちがあしたもし交通事故や病気で重い障害を抱えた場合、障害年金をもらえない可能性は十分にあると言えます。
 一番びっくりしたのは、国もそれは知らないのかと思ったのですが国はやはりお役所なので調査をしていて、未納・未加入者がどれくらい障害年金の制度を知らないのだろうということは、ちゃんと調査されていたのです」

(加藤)調査しているのですか?

(天本)「しているのです」

(加藤)それはちょっとあざといなという感じがしますよね。

(天本)「していて、その回答の5割近い人たちが『知らない』と答えているのです。ということは、障害年金を知らないままかけていない人たちがいるのでこれは国として対策をとるべきではないのかと。
 国民年金自体、今、毎月15000円以上かかるのです。若い人に取材してみると、『携帯電話の通話料よりも高いから、そんなの老後のためにはかけられないですよ』と。『いつもらえるのかわからないし』と。みんな知識がないから、しかも、自分があした障害を負うとは思っていないので、そのようなことはちゃんと説明したほうがいいと思うのですね。
 実際に車の保険や、僕らが普通にかけている民間の保険でも、やはり5000円の保険料ならこれくらいの補償がある、1万円であれば手厚い補償があるというリスクを知った上で、僕らは保険をかけると思うのです」

(加藤)旅行に行くときもそうですよね。死亡したときにはいくら出ますとかね。

(天本)「やはり値段によって補償は違うし、そのようなことをわかった上で保険というものはかけるものなのですが、みなさんもそうだと思いますし、僕も知らなかったのですが、高校や中学などの学校で教えてもらったこともないですし、20歳になるときの成人式でもこういったことはわからない。
 僕が見たことがある国のCMは『老後のためにかけましょう』ということしか頭に残っていないので、やはり国としては何らかの説明をしなければならないのではないか、と。そこが一番の、取材の肝でした」

(加藤)認知徹底させるために教育システムの中に組み込むとか、やはり国の義務だと思うのですが、どうでしょうか?

(天本)「本当に国の義務だと思うのですが、やはり聞いてみると『ホームページに書いてあります』とか、僕もチラシを見つけたのですが、チラシの隅にはちゃんと書いてあるのです。『3分の2以上払っていないともらえませんよ』といったことが。
 たしかに、国としては説明しているのですが、やはり『書いていますよ』ということと『みんなが知っている』ということとは違うのです。そのような意味では国としては説明すべきですし、実際国の動きとして無年金障害者の方たちは、実は2年前に助かるかもしれないと動いたときがあったのです」

(加藤)そうなのですか。

(天本)「それは民主党が政権交代する前に、マニフェストとは別なのですが、『こういうことを党としてやっていきますよ』という政策集の中に、きちんと『無年金障害者の方たちの救済をします』と書いてあるのです。なんで無年金障害者は民主党が政権をとれば、『もしかしたら救済されるかもしれない』、『救済されなくてもこの問題について、何か議論が国会であるかもしれない』と期待していました。
 でも2年経ってみて、実際に何の動きもない。ということでその方たちは救済してほしいということと同時に、自分たちのお金がほしいということもあるのですが」

(加藤)生活がかかっていますからね。

(天本)「生活がかかっているのと同時に、自分たちと同じような苦しみを味わってほしくない。特に、若い人たちにフリーターや派遣の労働者が増えている中で、若者たちに年金をかけない人が増えている中で、同じような苦しみを味わってほしくないので、何とかこの問題を、救済まで行かなくても、『こういう問題があるのだ、と国会で議論して深めてほしい』と言っているのですけれども、何の動きもない。
 特にみなさん覚えていらっしゃると思うのですが、民主党の長妻昭(ながつま・あきら)衆議院議員、ミスター年金が厚生労働大臣になったので、本当に期待したのですね。
 実際に番組の中でも無年金障害者の方たちが長妻大臣に会って、『本当に期待しています』ということで、長妻大臣も『本当にもう1回調査してみます』と力強い言葉をかけてもらったのです。しかし2ヶ月後の内閣改造で大臣を去るというような場面を、そのまま番組にしました。
 何かむなしいというか、せつないというか、そのような気持ちを無年金障害者はみんな持っていますね」

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(加藤)本当にいつ、体や精神の障害を負うのかわからないという中で、ほんのちょっとのことで一生涯、年金をもらえる人と、年金をもらえない人が、障害者の間で差別が生まれてしまうのは、やはりおかしいと思うのですね。

(天本)「一番僕がびっくりしたのが、この問題があまり大きくならないのは、生まれながらにして障害を持っている方たちの問題はよく取り上げられるのですが、その方たちに取材したときに、『障害年金をもらえない障害者っているのですか』と言われたことです。その方たちは小さいころから自分の子どもが障害を持っていて、20歳になって障害年金をもらっているので、障害年金は自動的に受給されるものだと思っていたようなのです」

(加藤)はなからそのように思われていたと。

(天本)「そうです。障害者を持つ家族ですら知らないという問題だったので、そのあたりは、同じ障害者の中でももらえる人ともらえない人がいるということは非常に大きな差です。1級障害者にはだいたい月82000円くらい。2級障害者には月66000円くらいなので、これは10年にすると1〜2千万円の差が出てくるのです。
 本当に障害者にとって障害年金は命綱で、障害を抱えているだけで『家族に迷惑をかけている』というのが、障害者の気持ちとしてあります。それゆえにどこかに行くという時にお小遣いも、自分は頼らなければならない。ある障害者を取材して一番心に残ったのは、食事などを同居して食べさせてもらっているのですが、その中でも食費を自分の障害年金の中から5万円を納めている。『それは自分にとって生きている尊厳だ』とおっしゃっていたのです。『だから障害年金をもらっている限り、自分は人間として役目を果たすことができるのだけれども、これがもらえない人たちというのは、障害者プラス家族に対しての自分の存在価値もないという、二重の苦しみを持っている』というのが、非常に問題だと思いました」

(加藤)ある種の負い目を抱えながら生きていかなければならないということですね。

(天本)「そうですね」

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